太古時代へタイムスリップ

 夜明け頃、乾安県の南西部にある大布蘇国家レベル自然保護区の管理員の孫乙鴻さん(39)はすでに作業服に着替えて、出掛けようとしていた。手には管理日誌があり、文字がぎっしりと書き込まれている。「これは私たち管理員の毎日の巡視路線です。フェンスの破損がないか、けがをしたり死んだりしている野生動物がいないか、放牧やルール違反が行われていないかなどを確認します」。日頃の管理保護の仕事について、彼はページをめくりながら、大切な宝物を扱うように話してくれた。




 移動中、起伏のある土色の小さな丘が一面に広がった場所を通過した。丘の表面にはたくさんの長い裂け目がはっきりとついていて、恐竜のような巨大動物の鋭い爪に引き裂かれたようなものもあれば、精巧な泥塑の工芸品のように見えるものもある。西の方角には、浅い湖が見えている。そんな荒涼とした雄大な景色を眺めていると、太古時代へタイムスリップしたかのような錯覚をしてしまう。「ここは国内で唯一の潜食地形ですよ」と孫さんは誇らしげだ。

  彼が言ったのは、保護区の「泥林」である。その総面積は約58平方。降水量の少ない乾燥した気候により、ここの地質は緩みやすく保水性に欠けている。水の浸食作用を受けた後、崩れやすい地面には「爪の痕跡」が残され、大砂漠のような壮観な景観が現れた。遠くに見えたのは大布蘇湖(モンゴル語で「塩湖」の意味)で、面積は約56平方だ。


 景色が独特なだけでなく、ここは考古学者にとって、重要な科学研究の価値がある貴重な場所だ。保護区では、ケブカサイや野牛、アカギツネなど13種の脊椎動物の古生物化石群が発掘されている。中でも原始牛の化石は、現時点で国内で発見された唯一の完全な原始牛の化石の骨格である。

 より良い遺跡保護のため、現在、保護区は観光客の受け入れを中止し、管理保護センター4カ所を設置した。孫さんは、保護区のパトロールと管理を担当する管理員の一人。2006年にここの管理員になって以来、保護区に対する気持ちは日増しに深まっている。「保護区にある一本一本の草木は、まさに私の家族のような存在です。十数年前、ここに来たばかりの頃は、村民が保護区で放牧したり、大布蘇湖に下水や家庭ごみを捨てたりしていました。長年の努力によって、やっとみんなの心の中に、景観を守るために協力し合う意識を育むことができました。私たち管理員にとっては、とてもやりがいがある仕事で、安堵の気持ちを感じています」と孫さんは遠くの大布蘇湖を眺めながら、感慨深げに言った。


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