草原の「吟遊詩人」

 ホウチョガジュウさんの公演があると聞いて、前ゴルロス大草原の人々の胸は期待に弾んだ。

 青い空に白い雲、羊の群れ、青々とした草。絵になる景色の中、蒙古族の遊牧民たちの中で四胡(二胡に似ている四弦の楽器)を弾いているのは、前ゴルロスで有名な烏力格爾の伝承者ホウチョガジュウさん(51)。


 モンゴル語の「ウリゲル」とは「物語」という意味だ。ウリゲルの芸人たちは、すなわち草原で物語を語る人。四胡の軽快で澄んだ音に合わせ、ホウチョガジュウさんが歌い始めた。人々がよく知っている『三国演義』の物語を独特なリズムに乗せて語るホウチョガジュウさんの少しかすれた声は、広々とした草原に高らかに響き渡り、かすかな寂しさとはかなさを醸し出す。


 昔、草原の独特な遊牧生活において、ウリゲルの芸人たちは人気者だった。果てしなく広がる草原で、人々が住むパオ同士は遠く離れ、互いに小さな明かりが見えるだけ。夕暮れ時、牛や羊を柵に帰した後、遊牧民たちはようやく馬に乗ってどこかのパオに集合し、首を長くして待つ。そこにウリゲルの芸人がやって来る。彼らは中世の欧州で活躍した吟遊詩人のように、草原のあちこちを旅して、数々の英雄伝説や神話伝説を音楽に乗せて語った。

 前ゴルロスのウリゲルは独特な節回しと言葉を持つ。多民族が集まっている同地では、長年の生産生活の中で、各民族の文化が融合したため、ほとんどの蒙古族の人々は中国語を話すことができる。表現力を上げるため、芸人たちは面白い漢民族の俗語などを歌に加えて、より生き生きと生活に根差した芸術的効果を生み出した。


 ホウチョガジュウさんのふるさとは内蒙古のホルチン(科爾沁)大草原だ。彼は2000年に前ゴルロスの草原文化館にやって来て、遊牧民からプロのウリゲルの芸人になった。それから遼寧省、内蒙古自治区、吉林省のあちこちでウリゲルの物語の素材を収集整理して、録音を行って前ゴルロスの各地に伝えた。

 「民族の文化遺産の喪失よりも残念なことはありません。そうならないように、微力を尽くしていきたいです」。1曲歌い終えたホウチョガジュウさんは、四胡を背中に背負い、再び「弾き語りの旅」に出掛けていった。


人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850