一人での食事も笑顔を忘れるな

天津職業技術師範大学外国語学院日本語学部2018  左心童

 

高校時代、友達に勧められ、『孤独のグルメ』というドラマを見始めた。ドラマと言っても、具体的なストーリーもなければ、ドラマチックな展開もなく、ただ主人公の五郎が一人で食事をする話である。最初見たとき、五郎の料理を見る時の素敵な笑顔、その豪快な食べぶりを、幸せそうだなあと感じたと同時に、一人で食べているのに、なぜそんなに幸せなのかと不思議に思えた。食事は家族や友人と一緒にしてこそ幸せなものだと思っていたからだ。いつも一人で食べている五郎の幸福が分からないまま、大学入学の日を迎えた。

第一志望校に落ちたので、生まれて初めて、親の元を離れ、完全に知らないところへ行かなければならなくなった。もう一年浪人したかったが、親の負担の重さを考え、諦めた。駅まで見送ってくれた親と別れ、一人で列車に乗り込んだ。席に着いた瞬間、涙を零した。周りの人に気づかれないように、すぐ拭ったが、言い知れぬ孤独感までをも拭うことはできなかった。必死に涙をこらえ、呆然と車外の風景を眺めた。列車が前に進むにつれ、風景は見慣れたものから次第に見知らぬものに変わっていった。未来への不安がどんどん強くなってきた。列車に揺られ、十何時間の旅を経て、やっと目的地にたどり着いた。

入学手続きを済ませ、少し落ち着いたところで、お腹がぐるぐると鳴り始めた。列車に乗ってから、ほとんど何も食べていなかったからだ。食欲はなかったが、空腹感に耐えられず、学食に足を運んだ。学食にはあまり見かけたことのない料理が並べてある。適当に定食セットを選んだ。一人で席に着いた。家族や友人は傍におらず、あるのは目の前の料理のみで、孤独感がまた込み上げてきた。無心に一口食べた。随分お腹を空かせていたせいか、美味しいとしみじみと感じた。美味しく食べているうちに、先ほどの孤独感が消えていき、なんだか幸福感が湧いてきた。ふと、いつも一人で食べている五郎のことを思い出した。五郎がなぜそんなに幸せなのか、少しわかってきたような気がした。一人で食事をするとき、傍に家族や友人はいないが、料理そのものに集中し、料理の美味しさを十分味わうことができるからかもしれない。食べ終わって、頭をあげて学食を見回すと、ご飯を食べている学生たちや、学生に親切に接しているスタッフたちはみんな素敵な笑顔をしている。そういう和やかな雰囲気の中にいた自分も、一人での食事も悪くないなあと思った。そして、どこからか力と勇気をもらったように、これから、どんなことがあっても、悔いのない大学生活、悔いのない人生を送ろうと決心した。

4年生になった自分は、たくさん友達ができ、いつも友達と一緒に食事をしている。時には、敢えて一人で食べるようにしている。五郎のように笑顔できちんと美味しい料理に向き合いたく、そしてまた、笑顔できちんと頑張っている自分に向き合いたいからである。

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