お金より心

天津職業技術師範大学外国語学院日本語学部2018  向霞

 

『おカネの切れ目が恋の始まり』というドラマを見たことがある。最初、そのタイトルに好奇心をそそられ、見始めた。見ているうちに、主人公の玲子の生き方に憧れるようになった。

玲子は周りの人から浮いており、同僚に世捨て人と呼ばれている。なぜかと言うと、玲子は清貧の生き方をしているからである。玲子は『方丈記』を著した鴨長明に倣って、「庵」のような小さな部屋に住み、持ち物がほとんどない。彼女はお金を大切にし、一円でも絶対浪費しない。気に入るものがあっても、すぐ手を出すことはなく、それを手に入れる時のために、場所的にも心理的にも、十分な準備をしておく。ものが壊れても、自分の手で修繕して使い続ける。

最も印象的なのは、彼女が静寂に包まれた庭に腰を掛けて、温かい太陽の光を浴びながら、楽しそうに一心不乱に金継ぎをしているシーンである。自分の世界に浸っている彼女の純粋無垢な笑顔は本当に幸せそうに見える。その屈託のない笑顔を見て、ふと、授業で習った「わびさび」という言葉が頭に浮かんできた。玲子の生き方はまさに日本の伝統的な独特の「わびさび」という美意識を反映していると言えよう。

「わびさび」は千利休や松尾芭蕉によって築かれたものにとらわれず、心の充足を追求している理念であり、日本文化に織り込まれ、古くから日本人に大きな影響を与えており、世界的にも広く知られている。しかし、「わびさび」は現代社会に生きる人々とは無縁のようである。現代社会とは、一言でいうと、ものに溢れる社会であり、お金があれば、何でも買えそうな社会である。現代社会に生きる人々、所謂現代人は、部屋がものでいっぱい埋まっているのに、話題になっているものや周りの人が持っているものが欲しくなりがちで、無計画にすぐ買ってしまう。その結果、買いすぎて、要らないものが出てしまい、お金が無駄になってしまう。結局、自分が本当にほしいものは何か分からなくなってしまい、欲望を満たされず、心が晴れないままである。そのため、生活に不要な物を思い切って処分する「断捨離」がブームになっている。豊かに暮らしている現代人は「断捨離」を通し、持ち物の整理というより、むしろ心の整理をしていると言えよう。もし、みんなが玲子のように、気に入るものに出会っても、早急に手に入れることをせず、時間を置き、本当に好きなのか、本当に必要なのか、慎重に考えたうえで買うならば、そのものが手に入った時の喜びは最高だろう。また、そのものが本当に気に入るものなら、なるべく長く持ちたくなるに違いない。そして、長く大切に使い続けているものにはお金で買えない貴重な思い出があるので、簡単には捨てられないだろう。そうすることで、お金を節約できるし、人々の心が晴れるようになると思われる。

  これから、自分も玲子のように、お金やものを大切に、純粋で豊かな心を持って、楽しい人生を送りたいと思う。

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