「別の私」への憧れを捨て、今を生きる

福州大学外国学院日本語学部2019 

 

 「農家に生まれれば、農民になる」。そんな時代とは異なり、現在では大学、職業などを自分で選択できるようになった。しかし同時に、「あの時、別の選択をしていればよかった」と嘆く人々も増えている。そして私もまた、そのなかの一人だった。山本文緒の小説『ブルーもしくはブルー』に出会うまでは。

中学から海外に留学していた私は、カナダの大学に行く選択肢もあったが、中国の大学を選んだ。しかし「もしカナダの大学を選んでいたら、もっと楽しかっただろうな…」とふと後悔することもあった。また大学で彼氏ができたのはよかったが、半年もしないうちに別れてしまい、「どうして付き合ったんだろう…」と自問した。自分の選択への後悔と不満。そのために、私は鬱憤を抱えながら毎日を過ごすことになったのだ。

 しかし『ブルーもしくはブルー』は、そんな私を救ってくれた。「この世界には、あえてやらないことをして、生きたい人生を送っている別の私が他にいるに違いない」。「今の私」に不満を持っていた私は、この一文に魅了され、貪るように一気に読んでしまった。そして「今を生きることの大切さ」を痛感したのだ。

物語は、高収入だが冷淡な夫と結婚し、不甲斐ない生活を送る佐々木蒼子が、元恋人の妻・河見蒼子に出会うことから始まる。小説では、佐々木蒼子と河見蒼子は、同じ人間である。しかし結婚を機に、佐々木と河見という2人の人物に分かれたのだ。つまり2人は、顔は同じだが生活は異なる「別の私」同士である。佐々木蒼子は、そんな「別の私」である河見蒼子の、優しい夫との幸せな生活に憧れる。逆に、河見蒼子は、裕福で自由奔放に生きている「別の私」、佐々木蒼子に憧れる。そこで2人は、生活を交換し、互いの生活を満喫するが、結局、相手の生活は思ったほどよくないことに気づき、元の生活へと戻るのだ。なぜ2人は元の生活に戻ったのか。それは、佐々木蒼子が、憧れた河見蒼子の生活にも、痛みや無力感があることに気づいたからだ。つまり、幸福に見えた相手の生活は、実はそこまで幸福ではなかったのだ。

私たちは、「過去の選択をやり直せば、幸せな生活を送れる」と考える。しかし、順風満帆で完璧な生活など、現実にはそもそも存在せず、それは単なる夢に過ぎない。2人の蒼子が求めた「別の私」も同じだ。それは幻に過ぎず、いわば「無いものねだり」の産物だったのだ。ここに私が『ブルーもしくはブルー』から学んだ重要なことがある。それはまさに「別の私という憧れを捨て、険しい道を選んでも、後悔や不満を抱かず、「今の私」を精一杯生きること」、このことだ。自分の決断を後悔せず、「別の私」という幻想を持たず、毎日を一生懸命生きればこそ、有意義な人生を送ることができるのだ。

私は2人の蒼子が教えてくれたこのことを、選択を後悔していた過去の私に、そして選んだ道を嘆く現代の人々に強く訴えたいと思っている。

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