『愚者の毒』と私の出会い

中国海洋大学外国語学院 張暁

 

 私がこの本と出会ったきっかけは、先生からの紹介だ。悲劇が多くあった筑豊炭鉱の時代背景も含めて、ストーリーはとても悲しく重たいもので途中までは読むのが辛かった。主人公たちの逃れられない運命が見るに忍びない。表紙絵も独特で、読み終わったときはさらに強く心に刻みつけられた。第70回日本推理作家協会賞受賞作『愚者の毒』、作者は宇佐美まことである。本は「武蔵野陰影」、「筑豊挽歌」、「伊豆溟海」三章からなっている。親殺しの過去を秘めた希美。借金を抱え、両親が死んで言語障害になった言葉を発さない4歳の甥達也がいた葉子。困窮した家庭に生まれ、他人には言えない過去を持つ不幸な女同士の巡り合いから話は始まる。

希美の紹介で、葉子は武蔵野のある裕福な名門のお手伝いさんとして雇われる。その家には、元中学校教師の難波先生がいて、彼が優しく達也に話しかけてくれる。そして第二章がらっと筑豊の場所に場面が変わる。ここでの話は一番物悲しいと思う。読んでいてあまりに悲惨な状況なので胸が塞がれる。そして真相がだんだん明らかになる。最後がまったく予測出来なかったが、明かされる絡繰りが衝撃的で、綺麗に伏線が回収されていて、読む手が止まらずぐいぐい引き込まれた。本の中で一番素晴らしいと思うのは日本の高度成長期の光と闇の切ない対比、この本はまさに光と闇に翻弄された人々の絶望のストーリーだ。光は難波先生の該博の知識と慈愛の心、そして穏やかな武蔵野の日々。闇は筑豊炭鉱で奈落の底に沈む希美と由紀夫の過去。

 この本を読む前に、表紙とタイトルのイメジーでただの犯罪小説と思っていたが、読み進めていくうちに単純な殺人事件ではないんだと気づいた。読んだ後大きなため息が出た。過酷な生活を強いられていた人たちの追い詰められた心境はひしひしと伝わる。でも、凄惨以外の何物でもない炭鉱で生き延びる術をどうにか身につけ、精神異常になった父を抱え弟妹を抱えていく極貧の中で健気に毎日を生きるの希美

の話が心の琴線に触れる。今、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい、世の中が混乱している。この感染症により、私たちの日常は大きく変わった。だが、生まれた時代や環境ゆえに幸せになる道を閉ざされた希美より、私たちはずっとラッキーだと思う。「貧困よりも飢餓よりも恐ろしいもの、それは絶望だ」本の中の一言。でも私は最も強い希望は絶望から生まれると信じている。今、この難局にあって、私が未来への確固たる希望を胸に、進んでいきたい。

 

(『愚者の毒』宇佐美まこと)

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