アズキ記念日

広東外語外貿大学日本語言語文化学院 級院生 陳綺雪

  

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

これは日本の女性歌人俵万智の一世を風靡した短歌である。ありふれた一日だが、詩人の特別の思い入れでそれを「記念日」にすることも可能である。愛する二人にとっての大切な瞬間、二人だけの思い出、なんとも微笑ましい一首である。「ううん……サラダ記念日か。そういえば、私の場合は、アズキ記念日があったなあ」俵万智の短歌を読みながら、留学時代のことが頭に浮かび上がった。

日本留学の時、私は草野さんと出会った。草野さんは私のアルバイト先の先輩で、代半ばの女性の方である。彼女は私を娘のように思ってくれて、折に触れて面倒を見てくれた。また、いろいろ日本のことを教えてくれた。たくさんの思い出の中で、最も忘れられないのは食物に関する思い出である。

木々の葉が落ち、お正月が近づく頃、草野さんは私が一度もおせち料理を食べたことがないのを知り、和風のお弁当箱を私に持って来てくれた。「私はね、できれば陳さんにいろんな日本の食物を食べてもらいたいの。そして、中国のご両親に紹介してもらったら、最高に嬉しいの。」寒い冬だったが、草野さんから家族のような温もりを感じた。そして、今度は必ず私の手作りの物を草野さんに送ろうと思った。時が過ぎ、あちらこちらで桜が咲き始めた。ひな祭りの日に、草野さんから女の子の健やかな成長を祈った桃カステラをいただいた。お礼に私は中国広東の食べ物「紅豆沙」(小豆を砂糖で甘く煮た食べ物)を作って草野さんに持っていった。

「美味しそう。これは何という食べ物なの。」と草野さんが聞いた。「これは日本の小豆と同じ物ですよ。中国では紅豆と言いますけど、漢詩にも入っていますよ。南国にある紅豆の木は春になると芽吹きます。君にたくさんの紅豆を採ってほしいのは、紅豆を見ると私のことを思い出してほしいからという内容の漢詩です。もし私が帰国したら、わたしのことを忘れないでくださいね。」と私は言った。「陳さん、ありがとう、本当に素敵な漢詩だね、わたしたち、これからもずっと友だちでいようね。」草野さんは言いながら私と握手したそして、詩歌が好きな私に俵万智の短歌を読むようにと薦めた。

『サラダ記念日』を初めて読み、「あの日がわたしにとっての『アズキ記念日』と言えるかもしれないなあ。」とふと考えたのである。私と草野さんは国籍が違うし、年齢差もあるが、お互いに自分の国の代表的な食べ物を分け合うことで、仲良くなれた。私は草野さんに中国の食べ物や漢詩を伝え、草野さんも日本の風習や和歌などを教えてくれた。お互いに贈ったプレゼントが大したものではないが、相手の国の文化を理解するきっかけになった。真の国際交流というのは、このように双方向の交流を言っているのではないかとわたしは草野さんとの交流で気付いた。

「この味がいいね」と君が言ったから三月三日はアズキ記念日」

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