伝えていきたいこと

天津師範大学 譚淑彬

 

今夜も『情熱大陸』を見ようか。それは私がけっこう好きな日本のテレビ番組で、いつも寝る前の静かな時間に楽しんでいる。 

番組が始まり、ナレーターが話し始める。その優しくて落ち着いた語り口には、心を和ませてくれる不思議な力があるようだ。今夜の主役は、パン職人の竹内善之だ。 

去年既に米寿を迎えた竹内は、今でも毎朝6時半に工房に来てパンを作ることを続けているという。 

100点のパンというのはわからない。まだまだ良いパンが焼ける。だから続けられる」 

常に今のベストを目指し、そして次はそれを越える。その魂は、小さな工房で繰り返されてきた家族の営みを通じて次の世代に受け継がれてゆく。現在、息子の隆が竹内の仕事を手伝っていて、さらに孫がその後継者となる希望が示されていた。父、子、孫の3世代は、遠い未来に至るまで、この家業が代々受け継がれていくことを願っている。 

私は番組を見ながら、そのような技術と心の伝承は、実は特別なことではない、私たちすべての生を象徴するものだと気付いた。先代から命を受け、時間や努力を積み重ね、そうやって培った経験や思いを次の世代に託していく。それは、私たち一人一人に託された役割と使命ではないだろうか。この世は何千年も前からそういう風に続いてきた。 

では、私のは何だろう?竹内がパン作りの技と魂を次世代に伝えるように、私は次の世代に何を伝えられるだろうか。日本語は私の専攻であり、一種の得意技でもあるが、ではそれを使って、私は次世代に何かを伝えることができるだろうか? 

昔の自分を振り返ると、日本に対してマイナスの感情を持っていた。しかし日本語を学びはじめてから、ネイティブに言語の質問ができるアプリをよく利用しているので、日本人と接触する機会が増えた。真面目で丁寧な回答もらえることが多く、そこで触れたのは日本人の温かさだった。さらに深く話してみると、同じアイドルが好きだったり、同じ事に対して同じ見方をしたりすることもあった。つまり私たちの間には、実はそれほど大きな違いがない。それが徐々に分かってきた。中国と日本の間に存在する偏見は、ただ理解不足によるものかもしれない。 

だから、その理解不足をできるだけ補うために、私は日本で日本人と一人一人の人間として付き合ってみて、彼らのありのままの姿を知り、そして、実体験を通して得たことを次の世代へ伝えていきたい。同時に日本人にも、日本語を通じて、実際の中国と中国人を知ってもらいたいと思う。多くの人には難しいことかもしれないが、日本語ができて日本からの情報を日常的に摂取する私には、決してできないことではない。つまりこれこそ私の、そして私たち日本語学科の学生の使命であり、私たちが次世代へ伝えられることだと思う。 

竹内のパンは私の日本語だ。竹内が彼のパンを次世代に伝えるように、私は中国と日本についての正しい認識を伝えていきたい。 

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