心に刻む風景

                    

広州南方学院 許燕姿 

  

『となりのトトロ』は、日差しも風も優しい五月に起きた夢の様な物語である。新天地でサツキとメイは思い切って遊び、助け合い、そこで夢のようないつまでも思い出に残る体験をする。やんちゃなメイと物心のついたサツキが父に連れられ田舎の家に引っ越し、そこでトトロに出会い、家の近くの不思議なものを探索する。遠い田舎にある老朽をきわめる部屋の中、家の床を開けると無数のススキが飛んでくる。大人にとって偏僻な田舎にあるこの古びた部屋で引っ越し作業をすることは大変かもしれない。しかし、子供にとっては、それは神秘的で面白さが溢れる旅である。私にとっては、この物語は心に刻まれた風景のように、疲れた心を癒してくれるものである。 

我々は大人になると、毎日の仕事や日常生活に追われ、身の回りにある素晴らしい風景を見落としてしまう。身の回りには、普段何気なく見えていても、実はとても貴重なものが多くある。しかし、私たちはこのごく普通の日常風景をあまりにも熟知しているので、ついこれらの貴重なことを忘れてしまう。 

我々大人に反して、子供はどうしていつも楽しくいられるのだろうか。それは彼らの世界が純粋であり、彼らの感情もピュアだからである。時に私たちは自分が楽しくなりにくいことや、色々な物事に対してもしびれを覚えてしまう。これは複雑な感情を味わい、だんだん成長する過程で純粋な感情を忘れてしまったからである。この感情は利益や物質には関係しない。好きは好きで、一人の人を愛する時は本当に心から好きだ、というような志向パータンである。 

特にこの科学技術が発達した時代では、人の感情も複雑になりつつある。昨今、私たちはネットで喜怒哀楽を表し、多くの友達を作ることは容易になった。しかし、ネット上で表している感情は必ずしも本当の感情ではない。利益のために友達を作っているのかもしれない。実は、簡単な感情、純粋な友達関係、これらはますます贅沢になってしまったのである。 

卒業が控えて、私はここ最近勉強と並行しながら就職活動の続けている。落ち着いた大人に見えるように気を配っているが、時々疲れを感じてしまうことがある。そういう時、宮崎駿が描いた世界を思い出す。いつも純真で質素であり、人物間の純粋な感情や、綺麗な街、自然に満ちた風景ばかりの世界である。『となりのトトロ』を見て、純粋な気持ちが湧き出て、疲れはすぐに消えてしまう。 

いつか私も複雑な感情を持っていて落ち着いた大人になるかもしれない。しかし、私はきっとこのような誠実で純粋な感情を思い出し、身近な人を愛することができるだろう。いつかこのような感情を忘れることがあったとしても、『となりのトトロ』を見ることで、もう一度発見することができると思う。トトロが教えてくれた感動が心に刻む風景のように私の心に残っているのである。  

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