私の「饅頭こわい」

江蘇理工学院 郑雯耀 

大学に入る時、日本のポップスやアニメが好きだから、迷うことなく日本語専門を選びました。しかし、勉強すればするほど、これは想像していたほど簡単なものではないことに気が付き、いつの間にか好きなものも嫌いになりました。 

ある日の授業で「饅頭こわい」という落語を勉強しました。面白すぎてクラスの皆は爆笑しました。私も興味を持ったので何度もその動画を見ました。さらに饅頭こわい以外の落語も見ましたが、他のものは古い話を繰り返すだけで、何が面白いのかちょっと理解出来ませんでした。結末も分かっている話をするだけで、これは芸術と言えますか。日本文化に詳しくない私には疑問でした。 

そんな時、「タイガー&ドラゴン」というドラマを見て、再び饅頭こわいと出会いました。元々の饅頭こわいは悪知恵を働いて饅頭をもらうという話ですが、ドラマの中の饅頭こわいは、文化の扉が開くように、いっぺんに私の見方を変えました。娘の結婚式に反対している父親は皆に嫌われている噺家の龍平を呼びました。娘は龍平を見ると、「嫌い」と叫び、悲鳴を上げました。その悲鳴を聞いた瞬間、龍平の心は完全に崩れました。男としてのプライドはパッと消え、そして気が狂ったように、彼は結婚式で暴れました。しかし「嫌い」と叫んでいる娘は喜んだ顔をしていて、父はそれを見て「お前は一体何が嫌いなの?」と聞いたら、娘は嬉しそうに「別荘が一番嫌い。」と答えました。 

このドラマを見て、あっ、これが落語の奥深さなのかと初めて気が付きました。龍平のバカな姿の中に人の脆さや痛みを感じ取りました。そして自分の姿を重ね合わせました。勉強のプレッシャーが大きすぎて諦めたいとか、メンツのために失敗を認めたくないとか、悔しくて泣いたこととか、これまでに経験したことが思い浮かんできました。落語の登場人物は、どんな状況になっても真剣に生きています。そんな頑張っている人のエピソードを聞いて、私も失敗や困難を恐れずに立ち向かう勇気が湧きました。落語は他の芸術とは違い、華やかな舞台ではなく、私達の生活にも身近な話ばかりです。登場人物は一見、突飛なキャラクターですが、確かに生活の中で存在する人物です。失敗した人生を織り交ぜた物語こそが落語の真髄です。どんなことになっても自分の考えを持ち、真剣に生きています。だから落語は共感を呼ぶ芸術です。 

落語は誕生して300年の歴史がありますが、今の時代でも皆に愛されています。そして日本という国は幾度もの大きな災害を受けても、その度に困難な状況の中で、努力や我慢、さらには助け合いの精神で乗り越えて来ました。どんな状況になっても諦めずに頑張る姿に私も励まされ、失いかけていた日本文化に対する興味が再燃されました。だから今の私は日本語学習に専念して、進む道は難しくても、少し楽しさを感じられるようになりました。これが私にとっての「饅頭こわい」です。 

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