「匙の光がさす方へ」

山東大学 沈凡 

去年の夏、私は「銀の匙」という漫画に出会い、その中の蝦夷農高校で繰り広げられる物語に読みふけていました。行き当たりばったりの人生に戸惑っていた八勇吾は、ひょんなことからこの高校に来て、学校の友達と一緒に人生の新たな進路を見つけていきます。 

その中で、最も私を魅了させたのは、その「近道であっても回り道であっても、本来夢に向かって走ることは幸せだ」という趣旨です。 

かつて、私も事なかれ主義で、型に嵌めるような生活をだらだら送っていました。でもそんな私に「銀の匙」は新たな光を優しく投げかけてくれたのです。 

 銀のスプーンに恵まれて、順調な一生を過ごせる人もいれば、そうでない人もいます。でも銀のスプーンを受け取るかわりに、未来を選ぶ権利も奪われると私は思います。一方、スプーンの誘惑に打ち勝て、自分の力で多彩な未来を切り開く無限の可能が期待されます。 

原作者でもある荒川さんは、家業を継ぐ使命があるものの、敢えて漫画家という道を選びました。家の生計を立てながらバイトを掛け持ちで夢を貫いていった時もあります。そしてその甲斐がようやくあって、彼女の作品は人々の胸に届き、事業の躍進を支えていきました。もし彼女は家業を継いだとしたら、十分な生活が送れたかもしれないが、夢の果てに辿り着けない蟠りのようなものが、ずっと心に残っているに違いありません。 

とは言え、誰もが荒川さんのように夢を叶えれるわけではありません。人生は、不条理でままならぬことが多いのです。でも当分転落した人生は、必ず明かりがなくなってずっと真っ暗闇とは限りません。実はその反対で、光が消えて見えてくるものは意外と多いものなのです。明かりのないところで浮かび上がってくる勇気と悟りこそ、人間を成長させてくれるし、人生の一番の賜物ものです。 

勉強だけに自分を縛り付けていた勇吾は、蝦夷農高校に来て初めて、自分の人生を見直します。進学半ばで挫けたが、彼はここでいろいろ経験し、既成の枠から抜け出して、最後は創業に成功しました。 

この漫画を読んだ後、私は強烈に惹きつけられたのです。大学の第一志望を決めた時、「匙を投げるのか、それとも未知の方に匙の艶を放っていくのか」と考え込んだ末、ずっと好きな日本語を専攻することに決めました。両親に大反対されて、いろいろ説教されても、私がその選択を押し通したのは、決して無謀でなく、夢を追いかける勇気、そして、人生に対する責任を悟ったからです。そして今も「銀の匙」との縁を大切にしています。大学で私は自ら日本語スピーチ大会や翻訳大会を挑戦したり、将来もこの縁を一層深めようと思います。 

これからも、この道を堂々と歩いていき、中日の架け橋となり、幸せも悲しみも味わいながら成長し、そして、そうやって生きていくその先には、私だけの美しい景色と中日関係の曙光がそこにあるのです。 

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