苦くて甘い「細雪」

北京東方道迩 韓育春 

「本を味わい日本を知る」のテーマを見たとたんに、日本の関西風土が描かれている谷崎潤一郎の『細雪』を思い出した。以前も少々読みかけていたが、今度やっと読み終えた。 

さすがフランスの哲学者サルトルにも大いに評価された日本現代文学の代表作である。大阪の旧名門の四人姉妹の生活、特に次女幸子の視点から見る三女雪子と四女妙子の縁談・恋愛を巡る話、美しい景色の移り変わりといろいろな出来事が私の目の前に展開されてきた。 

波乱万丈のシーンが無くても、一番印象に残るのはやはり平凡な日常に隠れる親しみ、温もり、苦い甘さ、それに儚さである。小説全編を読んだら、これは確かにハッピーエンドではなくても、人を曇らせるばかりの悲劇でもないことがわかる。日本人は完全なハッピーエンドよりも薄い寂しさと悲しさを帯びた物語の方が割りと好きだとある文章に書かれている。私見では、この『細雪』がまさにその一番の明証である。物語の最後に雪子が早々と結婚し、妙子が病院で若死の女子を生み、長女の鶴子は暮らしが貧乏になったが、幸子と夫の貞之助だけが戦争景気のおかげでゆとりのある日々を送っていた。栄枯盛衰、「そんな工合に急に此処へ来て人々の運命が定ま」(「細雪」 下巻 三十七)るかな。ただし、此の数年間の変遷に、蒔岡一家のお花見、宴会、山村舞、蛍狩り等々の雅な行事が飾られ、読者にささやかな喜びも与えてくれた。 

ここで、『細雪』を例として、他国の芸術作品(特に日本隣国の中・韓)と少し比較し、自分の目で見る日本文化の特殊性を紹介したい。中国の文学作品は円満なめでたい物語が多いが、『紅楼夢』みたいな悲劇も少なくない。しかし、感情面から見れば、ほとんど日本よりも激しくて強いものである。だが、『細雪』のように、日本の文化は煩わしい日常で小さな楽しみを見つけることを良しとすると思われる(ドラマや映画もほとんど同様)。もう一方、韓国の方は、映画とか韓流ドラマでご覧のとおり、リアリズムと甘さがたっぷりで、日本と異なるといえば過言ではないかもしれない。 

最後に、私は『細雪』の戦争描写について述べたい。実は、小説をより深く理解するため、他の論文も拝読した。谷崎潤一郎は反戦的作家でなく、彼の戦争支持の態度も此の芸術的傑作にも反映されている。私は戦争の被害国の一人として悲しいと思うが、最後に蒔岡家の親友、ドイツ人のヒルダ・シュトルツの手紙の一句を引用して今の世界に祈念する。 

「如何なる国民も戦争は好みませんから、結局戦争にはならないでしょう。」(「細雪」 中巻 二十二) 

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