新時代の「甍」と中日友好

王麗媛  中央財経大学

 

20202月、新型コロナウイルスの影響で中国の多くの地域でマスクや防護服など医療物資が不足していた際、日本の各界から支援物資が続々と届けられていた。そのなか、日本青少年育成協会が湖北省内の大学などへ寄付したマスクや体温計の段ボール箱に書かれた「山川異域、風月同天」という漢詩は話題となった。その漢詩は、約1300年前に日本の長屋王が唐に送った千枚の袈裟に縫い付けられた「山川異域、風月同天。寄諸仏子、共結来縁。」という詩句に由来する。長屋王の誠意に感動された鑑真が日本へ渡ることに決意したと古書に記されている。日本から中国への緊急支援に対し、中日友好交流の歴史のエピソートが再び蘇って、ネット上で「武漢への支援物資に、1300年近く前の長屋王の言葉を添えて想いを伝えるなんて、胸熱。」などの声が広がっている。

鑑真の話から井上靖の歴史小説『天平の甍』を思い浮かべた。天平時代、日本の留学僧は鑑真を誘うために中国へ派遣された。彼らが幾多の紆余曲折を経て、異国で客死し、あるいは海の藻屑と消えていった。そして留学僧の願いに応え、鑑真は五回の失敗を経て盲目になりながらも、やっと六回目の渡海で日本にたどり着いた。つまり『天平の甍』には留学僧と鑑真の強い意志と献身精神、また昔からの中日友好交流の難しさが力強く描かれている。その題名の「甍」とは「家屋の背」のことである。日本への帰国を果たした留学僧の手元に、やがて唐から持ち帰った一枚の甍があった。後にその形を用いて、唐招提寺の金堂が完成されたのだという。井上靖がきっと唐招提寺の甍に目を向けて、ありとあらゆる苦難をなめ尽くした鑑真と留学僧のことを思い出して、「甍」をその交流の証として小説を創作したのだろう。

新時代に入った今、この小説を再読してみたら、「甍」は家屋建築の重要な部分だけではなく、中日両国の人々が友好関係を代々築いていく原点と象徴でもあると思うようになった。中日交流の歴史を心に銘記し、共に今後の友好関係を構築する努力が必要である。深刻な新型コロナウィルスの危機に直面している今、互いにマスクや防護服などを寄付し合う交流の中、共通文化の漢詩は新時代の「甍」として両国の人々の心を温めた。中日両国人民が手を携えて疫病と戦う精神は『天平の甍』の鑑真と留学僧と同じだと思う。

確かに、中日両国の間には軋轢が生じたことがある。それにしても、中日関係は遠ざかるのではなく、より強い絆で結ばれるようになったと思われる。このことから、新時代の若者は「甍」の精神を受け継いでいくべきだと思う。雨にも負けず、風にも負けず、両国は必ず今の疫病の難関を乗り越えることができると信じている。そして中日平和友好の美しい未来がきっと切り拓かれるだろう。中日友好交流のシンボルとする「甍」を代々手渡していけるよう心から願っている。

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