孤独ではないグルメ

尚楚岳 北京師範大学

 

 毎日、寝る前に、ドラマ『孤独のグルメ』の主人公である五郎さんと一緒に日本の街を散歩したり、おいしいものを探したりすることが私の「日常」になっています。様々な町の風景を見ていると、自分も日本にいるように感じます。

 「社交が苦手な日本人は多い」と、大阪に住んでいる友だちが教えてくれたことがあります。「やから、友だちが少なくて寂しそうな人めっちゃおるで」と。五郎さんもそうなのかなと思ったこともありますが、このドラマを見れば見るほど、私の考えはだんだん変わってきました。

 食事の前と後、日本人は常に感謝の気持ちを込めて「いただきます」と「ごちそう様でした」を、貴重な食材をくれた大自然へのお礼として言います。五郎さんも例外なく、毎回微笑みながら丁寧に言います。静かに一人で食事をする彼は、きっとほかの人より新鮮な食材とおいしい料理を玩味することができると思います。一日三食という毎日行われる小さな幸せは、五郎さんにとって、期待感のあふれる芸術的な幸せなのではないでしょうか。

 孤独の人しか体験できないことがあります。

2019年、大阪大学に交換留学していた私は一人で瀬戸内海芸術祭を見に行きました。毎日、「孤独」の私はマイペースで観光したり、おいしいうどんを味わったりして、直島や女木島などの離島も含め、香川県の魅力を満喫しました。特に小豆島に行ったとき、私はほぼ一時間かけて、お気に入りの「静寂の部屋」という小さな博物館をたっぷり鑑賞することができました。「一人で旅行に行ったら、同行者の気持ちを考えなくてもいいから、のんびりできる」と、一人旅が好きな人は多いです。お一人様の旅や食事を体験したら、私もだんだんその「孤独」が好きになってきました。

人は誰でもある程度孤独の人だと思います。五郎さんが訪れた店で飲み会やパーティなどをやっている人たちも必ず寂しいときがあるでしょう。しかし、孤独であるからこそ、生活の中にある小さな幸せに気づき、より深くその幸せを感じることができます。孤独であるからこそ、静かに考えることができ、生活の哲学を悟ることができます。孤独の人は不幸だというわけではなく、自分なりの幸せがあるということだと思います。

一人焼肉、一人カラオケなどの「一人文化」は日本で流行っていると、日本で過ごした1年間の中で私は実感しました。しかし、孤独の人は寂しいというわけではないと、私は思います。孤独の人にとって、世界万物が自分の仲間であり、その人たちは世界と会話しているのです。

五郎さんは孤独のグルメなのでしょうか。いや、彼は決して孤独ではありません。

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850