幸福の発見

薛麗麗 長春工業大学

 

初めて読んだ太宰治の作品は『人間失格』だった。読み終えた瞬間、真っ黒の海底に沈んでいくような息苦しい感覚がしたことを今でも覚えている。これほど消極的な小説を書けた彼は、どんな人生を歩んだのだろう。この疑問を抱え太宰治の他の作品を読んでみたくなりそれがきっかけで『女生徒』を読み始めた。

人生の早い段階で、この作品に出会ってよかったと思う。太宰治は極めて消極的な作家だという私の認識を、この『女生徒』が変えてくれた

まず、作者は乙女の心の動きをこれほど繊細に書き留めたことに非常に驚いた。『女生徒』は一人の思春期に入った女生徒の一日を記録した小説である。「何かをするとき、昔も、これから今も、同じことをしていた、している、ような気がして、過去、現在、未来、それが一瞬間のうちに感じられるような、変な気持ちがした。」と書いてあるが、そのような気持ちが私も時々ある。この変な気持ちがあったのは私だけではないだと知って、ほっとした。作者はそんな不思議な気持ちを正確に言葉で表現したのである。読めば読むほど感動が心にこみあげて太宰治が人間の天使だと思えてきた。

読んでいうちに、これが小説だということを忘れてしまう。主人公の気持ちと重なる部分がたくさんあり、主人公が自分を一番理解してくれる何でも相談できる友人だと思える。「本を友とする」というが文学は人を慰められる存在だということを身をもって感じた。

作品の主人公は、度々消極的な気持ちになり、「いけない、いけない。弱い、弱い。」と何回も口にした。しかし、彼女はペットのカアをいじめたことを後悔したりお客の前で良い子ぶる自分を嫌になったり、憧れることのために頑張ったり、自分の部屋に百合が飾られていることにうれしくなったり、美しい夕焼けの空を見て感動したりする女の子である。ただ健康的な思春期を迎えたかわいい乙女である。

小説の最後に、「幸福は一夜おくれて来る」と彼女は言う。幸せになりたいという少女の願いが込められている。しかし、私からみると、彼女はすでにすごく幸せに恵まれている。愛する母がいて、母にも深く愛されている。それに、「みんなを愛したい」と涙が出るほどの彼女が本当に美しいと思う。この瞬間、彼女を羨んでいる自分も幸せに囲まれて生きていると突然気付かされたのである。至って健康な体を持って、思う存分に生活を楽しめる。明るくてゆったりした教室で好きな本を読みたいだけ読める。愛する家族はみんな元気でずっと温暖を与えてくれ、私の最も強い後ろ楯になっている。幸福は一度も遅刻したことがなく、常に私たちのそばにある。

今、この本に、「自分は幸せなんだと、気付かせてくれてありがとう!」と言いたい。

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