月影セレナーデ

班靖 北京第二外国語学院 

 

「美しい」とは何か。

 私はいつもこの問いを抱えている。子どもの時、月は綺麗だと思っていた。あの頃月を眺めるのが好きで、月の満ち欠けに追いかけ毎日というほど夜空を見つめ続けた。どうも月が特別な美しさを持っており、いつも私の心を奪っていく。年を重ねるにつれ、色や服の好みが徐々に変わっていたが、美への追求だけは常に心掛けている。

文学専攻になってから、本を読む機会が増え、文章の美、文字本来の美に気づき、一筋に追いかけた。そして、ついにこの本に出会ったわけである。かの作家は妖艶な色を文学世界に持ち込みたがり屋さんだったが、陰が好きだとは想像につかなかったゆえに、いまだに記憶に新しい。じっくり読んだおかげもあり、今までの生活を振り返れば、いろいろと考えさせた。

 昔、岡山に交換留学していた頃、旧閑谷学校へ見学したことがある。国宝とみなされているここの講堂で円座に正座し、黙想しながら息を整え、最後に一礼して授業が始まる。薄暗い講堂でのわずか数秒間の黙想時間に、心地良い滝の音が耳に入りこみ、音と息が温かみのある陰に潜んで一つになっていく。本番の授業は論語の朗読と説明で、子曰くからはじまる五つの儒教を代表する論語を学んだほか、「仁愛」は思いやりの心の持ち主であり、徳のある君子を象徴し、「學習」の「學」は知識を掴もうとする子供を表しているなど、重要漢字の構成も教えてくれた。

 光があるから、闇がある。白と黒が調和し、間が生み出されると同時に、心の余裕もできてしまう。淡い日光が木の葉の隙間から差し込んだほの暗い講堂に、昔の人々も私と同じように、ここで習字、教えを身につき、いつか羽ばたき、夢を見たのだろう。中国人と日本人が、陰翳に富んだ講堂の中に国境を越え遠い昔の時代に遡り、儒教を再認識し、発想の翼に乗って新たな世界へ赴く。

 今考えてみれば、それは多少なりとも陰の神秘なる魅力のおかげなのではないかと、つくづく思った。同じアジア圏にいる私たちはともに陰影という財産を有し、建築をはじめ、生活のあらゆる面に取り入れた。それを美としてめでたり、慕ったりし、大事にしてきた。「東洋の神秘」という、重みのある美しさ。そこから朗々たる論語をうたう声、または芳醇な香り、または潤う陶器、想像から創造へと、受け継がれた。

 人間はなぜ太陽と目を合わせることができず、月の夜を眺めることができるのだろう。瞬く星と夜空を引き立てに、月は微かながら優しい光を放っている。点滅する星より、眩しい太陽よりも未来永劫まで続けそうな月の光。月は我々と同じく、淡く黄色い、深みのある肌の持ち主なのだ。我々は一輪の月を見つめ、その月になる。そして、誇りを持って、自分の美を認めるのだと、夜空はそっと教えてくれた。

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