ゴーシュ様への手紙

童越 安徽師範大学

 

拝啓

暑い夏も、ようやく終わりそうですね。お元気ですか。立派な演奏家になりましたね。

最近、たまたまチェロの名曲、サンサーンスの「白鳥」を耳にして、ゴーシュ様のことを思い出しました。あなたと初めて出会ったのは、宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」を読んだ時です。

あの頃のゴーシュ様は悪戯小僧で、セロがあまり上手じゃなくて、楽長から怒鳴られてばかりいました。だから、毎日夜中までセロの練習をしました。それからの様々な出会い、あなたも覚えているでしょう。ある日、あなたの前に猫が現れて、「トロイメライ」を弾いてくれといった。次の日はカッコウが、その次の日には狸がというように、毎日動物がやってきて、ゴーシュ様のセロを聴こうとした。そんな中、ゴーシュ様は自分の演奏が彼らの役に立っていることに気付かされました。結局、演奏会が大成功を収め、ゴーシュ様は人々から称賛され、一躍有名になりましたね。

私は、日本語を勉強してから、ゴーシュ様のお気持ちと苦労がしみじみとわかるようになりました。楽譜の通りに弾くのなら、AIにでもできます。文法と語彙を知っているだけで、意味の正確な翻訳はできるでしょう。しかし、それではダメなんです。楽器も言葉も道具に過ぎません。人に何かを伝えようと思ったら、その「思い」を載せなければ伝わりません。ゴーシュ様もそうですね?動物たちの言葉を柔軟に聞き入れ、皆を助けようとする「思い」を込めて演奏したからこそ、人の心を揺り動かすメロディーを弾けるようになったんでしょう。その「思い」の大切さを、ゴーシュ様に教えてもらいました。

大学に入ったばかりの時、日本語が全然わからない私に、日本人の先生がいつも「こんにちは」「頑張ってね」と言ってくれました。先生の笑顔と情熱に、思わず心の扉が開きました。いま思えば、先生の「思い」が、言葉を超えて心に響いたからですね。

今年、伝染病が中国で拡大する中、日本は「山川異域風月同天」と書かれた支援物資を送ってくれました。物資よりもっと貴重な、日本の方々の美しい「思い」が素敵なメロディーのように、我が国の人々の心に深く刻まれました。国は違っても、思いがあればこそ、心と心はつながるものですね。

私の日本語はまだまだへたくそで、まるで未熟な音楽のように、音階はばらばらだし、耳障りな不協和音を奏でることもあります。それでも、異国の人達の心の扉を開けて、温かさや親しみを伝えたいという思いで、どんなに難しくても頑張って日本語を勉強し続けようと思います。将来、ゴーシュ様はきっと、音楽という純粋な言葉を通して、人間と自然との懸け橋になるでしょう。私もあなたのように、中日の人々の心を通わせる平和友好メロディーの演奏家になりたい。そんな日が来たら、もう一度この本を開いて、あなたに会いに行きます。それまで、本棚の片隅で見守ってください。どうぞお元気で、大好きなゴーシュ様。

敬具

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