漢字の面白さ

姜雅雯 東華理工大学

 

先生から『万葉集』(岩波書店、1958年)を借りてみると、第一巻の冒頭の所に次のようなものが書かれてある。「篭毛与 美篭母乳 布久思毛与 美夫君志持 此岳尓 菜采須儿……」。

「やぁ、これは難しいな」というのは、私の最初の印象であった。漢字の一つ一つが、いずれもちゃんと読めるのに、全体としての意味は全然わからないからである。先生が、ニコニコしながら、「これはね、普通の日本人でさえ分からないんですよ」と慰めてくれた。しかし、なにやら不思議がいっぱいの漢字に惹かれて、調べてみた。

後になって分かったことだが、『万葉集』での漢字は、その一つ一つを本来の表意文字としてではなく、日本語の表音のために借り用いられているのである。漢字を真名というので、万葉仮名は真仮名と称されているらしい。いわば、漢字は正真正銘の「名」がために、漢字の草書や略体を「仮名」、万葉仮名を「真仮名」にしたのであろう。これは、結構面白いと思う。

考えてみれば、現代日本語にも『万葉集』のような漢字だけのものがある。いわゆる「偽中国語」である。それは、日本語の文法上の文を取り、平仮名と片仮名を取り除き、漢字だけを残して中国語に見えるようにする日本語である。2009年頃にネットで流行したが、昨年、河野太郎氏(当時は外相)が中国に来て、日中韓の外相会に参加した後、SNSで「本日北京滞在最終日。午前中、李克強国務院総理表敬、日中外相会談……」などを投稿した。その「偽中国語」は、中日両国の国民が皆分かるので、結構話題になったようである。

現代人は兎も角、百年ぐらい前はどうであろうか。先生の話によると、明治前期の日中知識人による筆談の記録は多く残されている。早速調べてみると、「呉汝綸日本教育視察の筆談記録」のような論文や『清代首届駐日公使館員筆談資料彙編』のような本が出てきた。その筆談は当然ながら、漢字だけのもので、現在のような「偽中国語」でもなく、純粋な中国語である。ただし、呉汝綸(清末の教育者)が、哲学者の井上哲次郎を訪ねた際、「來此為欲瞻仰貴國教育」のような言文を使って、筆談をしたのである。

私は今、日本語を勉強している。『万葉集』のことをきっかけに、寮で時々仲間と次のような会話をする。「我等今晚何食」、「私豚骨拉麺食欲」。中国語で喋ると、ちょっとおかしいとも言えるが、逆に面白さが出てきて、勉強の後の楽しみでもある。

時代が変わった。また、変わって行く。私は「昨日、阿乃椅子羽個乃教室二有馬下」のような文字遊びをやりながら、漢字文化圏の再興を思い、胸を高鳴らせている。

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