悲劇はすぐそばに

賀宇晨 北京科技大学

 

 「これはどこの家でも起こり得ること。だけど、それは我が家じゃないと誰もが思っていた。」

  これはドラマ『赤い指』の冒頭のナレーションだ。登場人物が次々に現れるが、誰も笑わず、画面も暗く、何か悪いことが起こるような気がした。原作は東野圭吾の同名小説で、一家の悲劇を述べ、高齢化がもたらす問題を反映させた。小説を読むたびに、「中国でも同じ問題があるなあ」と痛感し、胸が締めつけられた。

  前原家はごく普通の日本の家庭だ。主人の前原昭夫はサラリーマンで、家族の生活を支えている。妻は主婦で、夫の母を介護し、中学生の息子が一人いる。ただ、他の家庭と違ってお互いに冷たく、無責任で、バラバラだ。息子が殺人を犯したのは家庭の影響が大きい。

  昭夫を例に挙げると、彼は毎日仕事ばかりして、家族との交流はほとんどなく、家庭と仕事のバランスを取らなかった。息子を正しく教育しないで、息子が小児性愛者になった事実を発見しても無視した。そして、母に冷たく接し、母が認知症を装っていることさえ気づかなかった。

  普通の小説なら、作者は現実では起こりえないストーリーを描く方が多いだろう。しかし、『赤い指』に描かれた前原家の悲劇は現代の各家庭で起こるかもしれない出来事だ。私が東野圭吾の他の作品より『赤い指』に引き込まれた理由は、殺人事件を推理する過程の絶妙さより、背後に潜む家庭問題だ。お互いに関心のない家庭のなんと恐ろしいことか。

  昭夫の家庭構成は我が家とほぼ同じだが、実は私の父は介護に関して昭夫と正反対のやり方をした。二年前、祖母が突然病気になり、自分のことができなくなった。すると、父は仕事を辞め、一人で祖母の介護をした。毎日かなり大変だったが、父は一言も文句を言わなかった。そんな父の姿に感動してたまらなかった私は、将来は父のような立派な大人になろうと決心した。

  最近、私は日本の「老老介護」という介護モデルに基づいてレポートを書いていて、「赤い指」の中にある介護問題にも関心を持っている。資料を調べると、我が家は稀なケースだと気づいた。父が祖母を介護できた理由は、早く定年退職して、別のパートの仕事だけをしていたからだ。経済的ストレスがないため、介護に専念できたのだ。

しかし、一般的な中年層は家庭の経済と子供の世話で手一杯だ。仕事が厳しく、ストレスも強すぎる。両親の介護も背負っているが、子供を優先するため、両親は後回しになる。その結果、老人は自身の世話をせざるを得ず、「老老介護」が生まれている。

  この問題の解決には、もっと政府の力が必要だ。今、中国はもう高齢化社会になり、日本と同じ問題に直面している。政府が高齢化に対する有効な対策を立てなければ、個人がいくら頑張っても、仕事と家庭のバランスを取ることはなかなか難しいだろう。

  前原家の悲劇は、私たちのすぐそばに潜んでいる。

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