忘れられないもの:日本人の職人気質

胡文志 青島大学

 

  日本のドラマは本当に、人の心を癒してくれます。

2019年の木村拓哉主演ドラマ『グランメゾン東京』は好評でした。主人公はパリで二つ星レストランに勤務したものの、トラブルを起こし、料理界から追放されてしまいました。同じ志を持つかつての仲間を誘って、やっとフランス料理店を出しました。皆は心を一つにして、さまざまな困難を克服しながら、三ツ星獲得を目指すというドラマでした。

 ある日、シェフたちは新しい料理を作るために、新鮮な食材を仕入れたいと思って、山奥の猟師の家まで車を十数時間走らせました。彼らは門前払いをされても諦めず、食材を大切にする職人の心意気をしっかり見せて、遂に猟師を納得させてしまいました。私は感動して、思わず涙ぐんでいました。その時、なぜか突然、あの山本さんが飛び出してきました。初めて私に、日本人の職人気質を実感させてくれたあの人がです。

 私は大学三年生の時、大分県の温泉ホテルで3ヶ月間、インターンシップをしました。調理長の山本さんは、テーブルマナーや食器の並べ方など、私にたくさん教えてくれました。そのホテルでは朝食と夕食時に、自然の素材をお皿に添えて、お客さんたちに喜んでもらっていました。私は当初は、柿の葉と赤い実を飾り付けました。冬になると、梅の小枝を飾るようにもなりました。大分県はよく雪が降り、一晩で五センチ積もる日もありました。山本さんは寒風の中、雪をかき分け、毎日、山の梅林に分け入っては、まだ蕾のままの梅の小枝を切って来ました。彼の両手はいつも凍えて、真っ赤になっていました。毎日そんな姿を見ているうちに、私の心にしだいに、疑問が涌いてきました。時間が経つにつれて、それは雪だるまのように、どんどん大きくなってきました。ある日、私は思い切って、尋ねました。「どうして、秋のうちに採っておいた葉っぱや実を飾り付けないんですか? 毎日、手を真っ赤にしてまで、梅の枝を切るなんて、とっても辛いことでしょう?!」と。山本さんはにっこりして、こう答えてくれました。「どうしてか、あなたにはまだ分からないでしょうね。だけど、私達はホテルを経営しているのです。お客様に最高のサービスを提供する、それは私たちの責任であり、誇りでもあるのです。蕾が膨らんだ梅の枝を早めに切って、ちょうどお客さんが食事なさる時間に満開となって、春の香をいち早く感じていただく。それは幸せな仕事ですよ。私達の作品のようなものですよ。」と。私の心に温かい湯気が立ち、窓の外では、小枝の雪が雲間に白く輝いていました。

  帰国してから、もうすぐ二年が経ちます。今でも時々、山本さんのお姿が懐かしく蘇ってきます。ひたすら相手に喜んでいただくという山本さんのあの素晴らしい職人気質、そしてドラマの職人たちの心意気が私の励みとなり、例え職種が違っても、この姿勢を大切にして生きていきたいです。そして、多くの中国人にこのような職人気質を実感していただいて、中日友好交流にも貢献していきたいです。

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