歌舞伎からの発想

 

肖錦  曲阜師範大学

 

  歌舞伎に興味を持ったのは、今年の七月、あの話題のドラマ「半沢直樹」で出演された歌舞伎役者の方々の顔芸がネットで大きな注目を集めた時のこと。人形みたいに顔を白く塗って、ちょっと怖いなと、私はその時まで歌舞伎に関して、そういうイメージしか持っていなかった。「半沢直樹」をきっかけに、私は歌舞伎とは一体どんなものだろうと知りたくなった。

  手始めに中国版YouTubeであるbilibiliで探してみたら、当代一の女形と言われる坂東玉三郎さんと中国役者周雪峰さんが共演した「楊貴妃」を見つけたので、クリックした。中国語の詞と日本の曲を合わせても、少しも違和感がないばかりか、儚い哀愁が画面を越え、私の目の前に漂っているような気がした。楊貴妃が九華の帳から登場した一瞬、その美しさに私は心を奪われた。セリフがはっきり分からないので、サイトに書かれたあらすじで理解しようとしたが、解説など必要なかった。きらびやかな衣装や優雅なしぐさ、それに、目は口ほどに物を言うその目の動き、これがたまらなく美しい。それだけで、じゅうぶんわかる。歌舞伎に一目惚れしてしまった。

  一番衝撃を受けたのは市川海老蔵さんが演じた「源氏物語」だった。歌舞伎だけではなく、イタリアのオペラ、西洋風のオーケストラなども加味され、一つの演目で多様な芸術が感じられるし、しかまったく一体感を失わない。私は正直に驚いた。「楊貴妃」は中日両国の文化融合であるとはいえ、やはり昔からの繋がりがあり、つまり中日両国の文化血脈で同じDNAがあるのだから、なんとなくその仕上がりを多少想像できる。しかし、「源氏物語」でミックスされた芸術は、地球の半分ぐらいの距離を超え、次に何が起こるのかわからない。思いがけない結末が待っている。もし、伝統=ダサいと思う人がいるなら、これを見るべきだ。

  創作すべきか、あるいは伝統を守るべきか、歌舞伎のような伝統芸術にとって避けては通れない難問だ。近年中国では、現代劇の形で京劇の風格を加えた「京話劇」という新しい試みがある。しかし、評価は賛否両論で、論争にさえなった。論争それ自体は別に悪いことじゃないと思う。なぜなら、賛否両論があるこそ、「これを見ている人がいるよ」という証明をする一方で、異なる視点では問題提起をおこすきっかけとなる。だから、恐れることなく、私たちが声に出して、はっきり主張することが一番大事である。

  私はここで、伝統芸術を創作することがいいかどうかについて討論するつもりはない伝統文化を継承するのはもちろん大切だが、創作することで世間の評価あるいは批判を恐れてはならない。それは、これからも続くであろう伝統文化を継承するうえでは、通過点にすぎない。そのためには、役者たちの絶え間ない努力は言うに及ばず、私たち観客の寛容な視点と確かな評価も忘れてはならない。

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