文化と精神の縮図

徐嘉盈  東華大学

 

 「精力善用、自他共栄」。この言葉を理解することは柔道を理解することでもあると私は思う。

柔道とは何かと聞かれたら、昔の私はきっと考えもしないで一種の格闘術だと答えただろう。しかし、今はためらわずにこう言う。「柔道は日本のスポーツであり、精神であり、文化である」と。

 私の考えを変えてくれたのは『重版出来』という日本のドラマだった。これは漫画編集者をめぐって、漫画家と編集者の仕事の様子を知ることができるドラマだ。主人公は元柔道選手だったが、怪我を負ってしまい、やむを得ず柔道をあきらめた。卒業後、出版社の漫画編集部に配属され、漫画編集者として一から学び、漫画の世界に魅了された。彼女は編集部の先輩たちとともに重版出来を目指して、様々なピンチを乗り越える。夢と元気と勇気に満ちた物語だ。

最初は漫画に関するドラマだと聞いて見始めたが、意外なことに、見終わって一番私の心に残ったのは全編の物語で一貫して見られた柔道の話だった。

特に第一話と最終話に出た「精力善用、自他共栄」というセリフだ。これは主人公が出版社で働き始めた頃からデスクに貼ってあったポストイットに書いてあった言葉だ。柔道を創立した嘉納治五郎の名言で、最大限に自分の力を使い、日頃の行いを正しくし、他人を尊重し、感謝し、信頼しあうことで共存共栄ができるという意味だ。私は最初その八文字の意味が理解できなかった。柔道の稽古を長年してきた主人公がその意味を教えてくれた。彼女はごく普通であると同時にとても明るくて情熱にあふれた人だ。何事に対しても一生懸命で、どんな時でも諦めないでひたすら前を向いて走っていた。しかし、それは彼女に悩みがないわけではなく、楽観的な態度と強い心の持ち主であるからだ。彼女のその熱血的な態度を築き上げたのは実は柔道だったのだと最後になってようやく気づいた。漫画編集者としては完全に新人だったが、彼女はすべての仕事をうまくやり遂げた。それだけでなく、周りの人を助け、元気を与えることで、彼らと一緒により良い自分になった。精力善用とはそういうことだったのか、と私は考えさせられた。彼女は自分の能力を最大限に使った。勉強する力、失敗を恐れない力、周りを励ます力、自分らしく生きられる力。「精力善用」が彼女を輝かせ、力強くしたのだ。その結果、彼女は成長し、周りにいる人たちも彼女から学び、補い合うことで「自他共栄」を実現した。優れた才能より、自分の能力を生かすことのほうが大切だということが私の心に刻まれた。

このドラマを見て、私は柔道に強く惹かれた。ただの競技ではなく、その核心には日本を代表する精神と文化の縮図がある。柔道を知ることは日本を知ることでもある。中日の架け橋ともなるべく私たちは、柔道にはそれほど深い意味と巨大な力があるということを知るべきである。

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