人と人のつながり

魏冬梅 北京康肯環保設備有限会社

 

新型コロナの感染拡大に伴い、物理的な距離を越えた、人と人との新しいつながりが生まれている。いつ感染拡大が収まるのか先は見通せないが、心の中はウイルスに支配されずに過ごしたいと思う。対面での交流が難しい中でも、何とか人とつながろうとする私たちの行動が、ひいては新型コロナの感染拡大で苦境に立たされる人々を癒すことにつながっているのだと気づいた。

私は「読み終えた人が明日に希望を持てるように」というキャッチコピーに惹かれて『クスノキの番人』を読み始め、ページをめくる手が止まらなくなった。人間のあらゆる思念を全て受け止め包み込んでくれる、大きなクスノキの懐に抱かれるような温かさを感じた。また、どの人も立場があってなかなか素直になれないものだが、心のもやもやを解きほぐしていく「クスノキの番人」の姿に、こちらも癒されて爽やかな気分になった。読書を通して、国や時代を超えて心が通い合った気分になり、一人ではないと思えることも人とのつながりであろう。

元勤務先の機械を盗み、逮捕されてしまった玲斗は母の異母姉の千舟からのある条件と引き換えに釈放してもらう。その条件とはクスノキを守り、祈念に訪れる人の対応をする仕事だった。祈念に訪れる人々とのつながりを通して徐々にクスノキの秘密に近づき、それぞれに複雑な家族の事情があることを知った。誰もが皆自分の思いを大切な人に受け取って欲しいと思うが、それを正しく伝えるのは難しい。親子や兄弟といった間柄であってもそうである。私の父は家族に面と向かって好意を示すことができない性格なので、想いを通じ合わせることが難しいと私は困っていた。しかし、この本がきっかけで、人と人とのつながりの大切さを改めて認識し、自らの人間関係も見直そうと考えた。特に佐治親子の話を通じて、その家族間の伝えられなかった後悔やわだかまりを理解することができた。人の心は複雑で、いい所ばかりではなく、悪い部分もあるが、全てをひっくるめて受け入れてもらえるような人と人のつながりを築きたい。

転落人生のどん底に落ちそうだった玲斗が千舟に助けてもらい社会人として育ててもらえたことも良かったが、千舟が玲斗に逢えたことも本当に良かったと思う。「明日の千舟を受け入れる」という玲斗の言葉が認知症のある千舟を癒し、私の胸を打った。病により記憶が無くなることを不安に思うのではなく、毎日が新しい世界だと思って前向きに考えよう。また、若さがなくても、老いの中でも成長や託せる未来がある。人生には色んな困難があるが、家族間だけではなく、どのような人であっても、愛や信頼関係という人と人のつながりがあれば、人間は何より優しく強くなれるのだ。

国と国のつながりも人と人のつながりのように、いいことだけではなく、暗いことでも全部受け止めつつ前に進んでいくのだろう。立場が異なる国々でも、愛や信頼関係を通じてつながることができるのだと強く感じた。厳しい環境だからこそ「癒やし」を届けたい。新型コロナの日々の中でも、日中の民間交流は途絶えることなく、お互いに支援物資を送り合い、「一緒にこの困難を乗り越えよう」というメッセージを伝えた。これからも支え合い、その心温まるつながりがいずれ伝わると信じ、伝える努力を続けたい。

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