中国における貧困対策と小康社会の実現についての一考察=小林正弘氏

小林正弘 清華大学法学博士 Genuineways.Incブランド保護顧問

全世界でコロナウィルスとの戦いが続く中、中国では今年中に国内の絶対貧困人口(年収入2300元以下の人口をいう)をゼロにするという人類史的挑戦が行われている。

中国政府は、2020年を貧困脱却の難関攻略の目標達成と小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的な完成を実現する最後の総仕上げの年と位置づけている。『習近平 国政運営を語る』第3巻によると、習近平主席は20194月に座談会の談話の中で、2020年までに農村の貧困者が衣食に困らないことを着実に実現し、彼らの義務教育、基本医療、住宅安全を保障することは、貧困脱却の基本的要求と指標だと強調した。

小康社会の概念は、中国の古典に由来し、鄧小平氏が、改革開放初期にあたる197912月に訪中した大平正芳首相から中国社会主義国家建設における「四つの現代化」(2000 年までに工業、農業、国防および科学技術の四つの現代化を実現するという目標)の青写真を問われたことをきっかけに、提起されたものである。その際、鄧小平氏は戦後における日本経済の発展を念頭に置き、「『四つの現代化』の概念は、貴方たちの抱く近代化のイメージとは違い、それは『小康の家』を目指すもの」と答えた。

改革開放以降、中国の不断の努力の結果、農村貧困人口は、大幅に減少し、貧困発生率も大きく低下している。すなわち、現行の貧困基準(1 人当たり年間純所得 2,300 /年、2011年価格水準)によれば、1978 年の中国の農村貧困人口は 7 7,000 万人、貧困発生率は 97.5%であったが、2020123日に発表された国家統計局のデータでは、2019年末の農村貧困人口は551万人(前年比で1109万人の減少)、貧困発生率は0.6%とされている。改革開放から40年を経て、実に8億人に迫る絶対的貧困人口を減少させたことになる。これは国際的視点からは、人類共通の喫緊の課題である貧困撲滅について、その壮大な実験が中国で行われ、世界レベルでの貧困撲滅に大きく貢献したことを意味する。中国政府が貧困対策の各段階で直面した問題に対し、海外の手法も取り入れつつも、国内の実状に即し試行錯誤を繰り返し、克服してきた経験は、他国が貧困対策を行う上でも重要なモデルケースとなる。

具体的な貧困対策としては注目されるのは、山間部等、飲用水の確保が難しく、土地が荒れ耕作にも適さないような生存条件・生態環境が劣悪な極貧地域の貧困対策である。中国政府は、201512月にこのような地域の貧困民が希望する場合に、移住による脱貧困を行うことを決定した。移転先のインフラ整備、住居建設、就学、医療、就職先、産業開発等を政府が主導し、貧困民が移転先で自立し、社会生活の再構築できるまでサポートが必要になる。その政策の実施は、膨大かつ長期にわたる投入規模、貧困再発リスクのコントロール等、いずれをとっても極めて難しい挑戦となろう。とくに、農村生活から都市生活への適応は、その前提となる読み書き等の最低限の学力も必要となり、短期的に解決できるものではない。それは義務教育の充実を通じて次世代も見据えて解決していく必要がある。他方で、貧困の原因を家庭構成レベル、個人レベルにまで落とし込んで具体的に分析し、貧困原因ごとに多様な貧困対策を複合的かつ的確に使用して、自立をサポートする試み(プレシジョン貧困対策)も積極的に行われている。

中国政府の歴代指導者に継承され、段階に応じて調整されてきた小康社会政策とその具体的な対策には、中国政府の貧困対策への責任感と本気度、いわば人間主義の発露というべきものが如実に現れていると言えよう。

中国古代の思想家が夢見た「大同」思想に基づく理想の社会の建設をゴールとするならば、絶対的貧困人口が統計上ゼロとなり、全面的小康社会が実現することも、一つの通過点といえる。生活の質の向上と14億の人民一人ひとりが安心して幸福を育むことができる社会の建設への挑戦に終わりはない。

「中国網日本語版(チャイナネット)」 20201026

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