進化し続ける「一帯一路」イニシアティブの未来のために

~ジャーナリストの視点からの考察と問題提起~

ジャーナリスト 木村知義

長く放送メディアで仕事をしてきたことを踏まえて、ジャーナリストの視点から「一帯一路」イニシアティブの未来に向けて問題意識の一端を述べてみたい。

「一帯一路」ニューズネットワーク(BRNN)発足をふまえて

 
2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開催を前に、423日、「一帯一路」ニューズネットワーク(BRNN)の第1回理事会議が北京でひらかれ、BRNNの正式な発足が発表された。これまでに86ヶ国182のメディアの参加が確定したと報じられた。

今後、各国のメディアによる「協働のプラットフォーム」として、活動が本格的に展開されることが期待される。

「一帯一路」イニシアティブが、アジア、ユーラシア、アフリカ、そして中南米各国へと、まさに地球を俯瞰する広がりを見せる中で、メディアの果たす役割は一層重くなる。

そこで「一帯一路」ニューズネットワークをメディア企業、機関にとどまらず、フリーランスのジャーナリストも参画できる、広くひらかれたプラットフォームとしていくことを提案したい。

現在、日本や米国など「一帯一路」に対して距離を置く国々のメディアの参加は見られない。しかし、そうした国々においても、「一帯一路」に対して深い問題意識を持つフリーランスのジャーナリストが存在している。また、既存のマスメディアに対して、オルタナティブメディアとして読者、オーディエンスの信頼を得ている小規模なメディアが存在することにも注目すべきである。

「一帯一路」ニューズネットワークを、こうしたフリーランスジャーナリストにもひらかれたネットワークとしていくことによって、「一帯一路」イニシアティブの一層の進化、発展に大きく貢献することは間違いない。

「実事求是」の立場に立つ、優れたジャーナリストの力をグローバルに繋ぎ、生かしていくことで「一帯一路」ニューズネットワークの力強い展開をめざすことができるのではないだろうか。

また、このようにして形成したネットワークを生かして、そこに結集するジャーナリストによる「一帯一路」の現場での共同取材から情報発信への試みや人材育成をめざしたワークショップの開催など、多彩な活動へとつなげていくことができると考える。

さらに、「一帯一路」の時代にふさわしい、新たなグローバルメディアネットワークの創生へと発展させることが期待できる。このメディアネットワークは、多様、多元的な文化創造のプラットフォームとしても有意義な役割を果たすことになるだろう。

日本における「一帯一路」および中国報道の一断面から考えること

日本における「一帯一路」についてのマスメディアの報道、あるいは中国ついての報道は、依然として「警戒感」「脅威」「懸念」という文脈で語られることが多い。

日本におけるマスメディアの中国報道が抱える根の深い問題である。

ではなぜメディアの多くがこうした中国への「警戒感」、「脅威論」を脱却できないのであろうか。

中国をどう見るのかは詰まるところ世界をどう見るのかという問題として存在していると言っても過言ではない。

冷戦時代の東西のイデオロギー対立のもう一つの面は、「進んだ(先進)」と「遅れた(後進)」という歪んだ感情でとらえる二分法的思考にあったと言える。

「中国脅威論」に潜む思考は、中国を既存の国際秩序から外れた特異な存在とみなすことを色濃く前提にしている。さらに、そこでの「脅威」は急速に台頭する中国への、旧来の「遅れた存在」という中国観から脱却できないある種の優越意識の裏返しというべき「危機感」にもとづくものである。

そうした意味で、いま、われわれは「中国の衝撃」の時代を生きていると言える。

いまだに前世紀的思考から抜け出ることのできないメディアの貧しさを痛感するばかりである。

私たちが知らなければならないのは、西洋近代型の国民国家が唯一のモデルではなく、古来、連綿と続く文明国家の歴史が息づく国のかたちを持った中国だということである。文化、文明が多様であるのと同じように価値観もまた多様にあるのだ。そして世界秩序は従来の歴史では経験しなかった道筋で再編されてゆくだろう。

問題は何をエンパワーメントするかである。社会の進歩、歴史の発展にとって正しく役割を果たすメディアとなっているのか、メディアにおけるアジェンダセッティングが正しくおこなわれるかどうかが極めて重要になる。そのための世界観が、歴史観が鋭く問われることになる。

「一帯一路」の“現在”への基本認識の整理とジャーナリストの責任

今回の第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムでは、より質の高い「一帯一路」の共同建設に力を注ぐことが確認された。「一帯一路」の進化のスピードはきわめて速いことを実感したサミットであった。構想の提唱から6年になろうとしている「一帯一路」イニシアティブは、試行錯誤を重ねながら経験と知識を蓄積しそれを共有しながら、問題を解決し、より良いあり方を切り拓いていくという歩みを続けてきたのだが、その進化、発展のスピードがめざましい。

同時に、この過程を通して「一帯一路」についての問題意識がいっそう深まった。

日本語の発音では「進化」と「深化」はおなじく「シンカ」となるが、まさに「一帯一路」は進化し同時に深化していると言える。

「一帯一路」はいまや経済にとどまらず文化などあらゆる分野を包摂した複合的なプラットフォームへと進化、成長を遂げている。メディア関係者、ジャーナリストにとっても実に魅力的なプラットフォームとなる期待を抱かせるものである。

「一帯一路」イニシアティブは既に「経済圏構想」という次元をこえて、新たなグローバルガバナンスの構築をめざすプラットフォームとなっていることを知らなければならない。まさに、21世紀の「新たな世界」をつくる「インキュベーター」となっているのである。

それゆえに、問題の所在を的確にとらえることが課題の克服につながるという問題意識が重要になる。すなわち、ジャーナリストの果たすべき役割と責任という立場からは「実事求是」がなによりも肝要である。これはメディアの報道に当たっての核心的な課題である。

歴史的転換期を生きるメディア、ジャーナリストの責任

「一帯一路」構想は「壮大な物語」である。

いま世界を見渡してみると、対立と分断に苦しむ混迷の世界が見えてくる。

未来に夢を持つことのできる「物語」を失っている時代と言ってもいいだろう。

世界史的に見れば冷戦後の米国単独覇権は終焉を迎え、われわれは歴史的な転換期を生きている。特にトランプ大統領の登場でそれは加速している。一層内向きになる米国に、世界に向けて提示するビジョンが見えないなかで、「一帯一路」は新たな世界のあり方をひらく唯一のイニシアティブとなっている。そして「人類運命共同体」というこの「希望」の重心はユーラシアに移った。さらにアフリカ、中南米へと「希望」の帯は伸びて広がっている。

いま、地政学という冷戦時代の「遺物」のような考え方がまたもや息を吹き返してきたと言われている。とりわけ、「一帯一路」の「一帯」、「シルクロード経済ベルト」となるユーラシアはこれまで「歴史の回転軸」あるいは「ハートランド」と言われて、世界の行く末を左右する戦略的にも重要な地域とされてきた。そして、これまでは対立と抗争、戦争の火種ともなりかねない「覇権争い」の「きな臭い」地域として歴史を重ねてきた。

しかし、そこに、旧来の対立や紛争をのりこえて協力と包容、平和的な発展の「大きな物語」を描こうとする、「人類運命共同体」の構築を目標とした「一帯一路」構想が生まれ、いま日々進化し、躍動している。

「人類運命共同体」は、平和の裡に新たな「世界秩序」を創り出していく可能性を示していることに重要な歴史的意義がある。

それゆえに、「一帯一路」のビジョンに掲げられているように、国の大小や国力の強弱をこえて、すべての国が共に尊重され、共生でき、ともに利益を分かち合える豊かなフィールドにしていくために、ジャーナリストもまた努力を重ねるベきである。

重ねて言う、「一帯一路」構想は「壮大な物語」である。

新しい発想は、多様な価値観の交流から生まれる。

「世界を新しくしていく」という人類史的な「壮大な物語」を共に描くフィールドが目の前に広がっている。

この「物語」をより実体の伴った豊かなものしていくために、共に力を合わせていこうと呼びかけたい。

 

人民中国インターネット版 2019515

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