日本人学者が読み解く 中国アフリカ協力フォーラムでの習主席の基調演説

 

江原規由(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト

習近平国家主席は、基調演説の冒頭で、“兄弟であるアフリカ人民に中国人民の心からのご挨拶を申し上げる”と述べているが、この“兄弟である”に基調演説の主旨が込められているといえる。13億の世界最大の発展途上国の中国人民と、発展途上国が最も集中している12億人余のアフリカ人民が、兄弟として手を携えて中国―アフリカ運命共同体を構築することは、世界文明の進歩、世界経済の発展に大きな福音となるに違いない。国家主席就任以来4度アフリカを訪問した習主席だからこそいえる格調のあるアフリカそして世界に対するメッセージでといえよう。

その中国―アフリカ運命共同体構築のカギを握るのは、何より、「一帯一路」と、「10大合作計画」、そして、「8大行動」の行方にかかっていることが、習主席の基調演説から読み取れる。具体的には、例えば、アフリカ連合「2063年議程」およびアフリカ諸国の発展戦略との連携、600億ドルの資金支持、今後3年間に100億ドルを下回らない中国企業によるアフリカ投資の実現、中国―アフリカ農業現代化協力行動計画の制定、アフリカ大陸自由貿易区(FTA)建設への支持、そして、未来を担う人材育成・訓練(2000人のアフリカ青年の招へい・交流など)、減貧協力、さらに、竹藤産業の開発援助などでの対応である。これほど多様な協力姿勢を示し、その実現に向けた計画を打ち出せる国は、中国をおいて他にはないであろう。

今年は、中国および世界経済の発展に大きく貢献してきた改革開放40周年である。その発展の経験をアフリカの地で開花させようとしている中国の姿勢が、習主席の基調演説の行間に溢れ出ているのではないだろうか。

 

伊藤亞聖 東京大学社会科学研究所准教授

今回の演説で目を引くのは、無論、「中国アフリカ運命共同体」という言葉である。「共同体」という単語は演説に合計15回登場し、明らかに演説のキーワードになっている。600億ドルの資金供与の表明に目が行きがちだが、中国アフリカ研究院の設立や博覧会の実施、そして青年交流の強化など、「人」に関わる交流の強化が打ち出された点にも注目が必要だ。

そのうえで、政策的には「一帯一路」に5回言及し、アフリカとの関係強化の文脈においても、「一帯一路」構想およびその関連金融機関がサポートする体制となることが明確になった。短期的な視点から言えば、米中貿易摩擦が激化する中で、途上国間の協力、すなわち「南南協力」の重要性が高まっているとも言えるだろう。ただ、より長期的な視点から見ると、多くの人口を抱える中国とアフリカとの間の協力を強化することは明らかに重要だ。両地域の人々にとって真にウィンウィンの関係が構築され、豊かで安定的なアフリカにつながるのであれば、国際社会にとっても望ましい。

2015年にはヨハネスブルクで前回の会議があり、昨年2017年には北京で「一帯一路国際ハイレベル協力フォーラム」が開催された。ほぼ毎年中国とアフリカの高官とビジネスマンが一堂に会する場が創られつつあることは、新たなプロジェクトにつながる。投資プロジェクトの選別メカニズムがどのように確保されるかにも注目している。

 

人民中国インターネット版 2018年9月4日

 

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