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漢学研究の大家に聞く② 岡村繁氏

「日本人の血液に溶け込んでいる中国文化」

 

「彼の中国文化に対する深い気持ちは、長年の中国文化に対する心を込めた研究から生まれてきたもので……この気持ちは中国学術界から重要視されるべきだ」と、中国内外で極めて有名な中国国学の大家・王元化氏が『岡村繁全集』に寄せた序文で、「これは新中国成立後初の外国の研究者による中国文化研究の全集であり、王氏が中国学術界の重要視を受けるべき」と書かれた作者こそ日本漢学の泰斗・岡村繁先生だ。

九十歳にもなるご高齢の彼が住む大きくはない二階建ての家には、1万5000冊余りの蔵書があるが、そこには長年収蔵してきた中国の貴重な古書も少なくない。それらの書物が積まれた書棚に囲まれた一角が彼の読書の場所だ。岡村先生へのインタビューは、茶室の片隅に掛けられた「漢学泰斗」の掛け軸についてから始まった。彼は次のように自分の漢学との出会いについて振り返った。「いわゆる“漢学泰斗”ですが、中国書を学んだ時間が比較的長いというだけに過ぎません。幼いときから日本の本より中国の本を多く読んでいました。12歳以前に読んだ本はすべて中国のものでした。13歳で中学入学後、学校は専門の漢文課程を開設し、国語の一部としたのです。当時の日本では大部分の子供は12、3歳で漢文を学び始め、20歳前後まで学びました。私は漢文の理解能力レベルはすでによ中国人と変わらなかったのです。私の漢学生涯は、戦前、戦中、戦後というまるで異なった三つの時代にまたがっています。実際、英語、ドイツ語、オランダ語など外国語が日本に入る以前、日本社会の知識層はほとんど中国の古典書籍だけを学んでいたので、そのうち多くの人の理解は同時代の中国人をさえ上回っていたのです。さらに、もし漢文を媒介としなかったら、いわゆる洋学も速やかに日本に入ってくることはできなかったのです」

80年近くにもなる漢学生涯だが、その間に岡村先生の漢学や日本に対する認識にも変化があった。

「私の記憶では、不幸な戦争時代であれ、日本の大学では中国文学が学生たちに有数の人気科目でした。当時、中国から来た先生は日本の学生に対する要求が極めて厳格で、しかる時もまったく遠慮なしでした。れそでも、学生たちは中国人の先生をとても敬い、師弟関係の礼儀をきちんと守っていました。しかし、1945年の日本の敗戦後、米国の占領下にあって、日本の漢学研究は大きな打撃を受けました。数年後に関連研究業務が次第に回復したといっても、日本の漢学研究は下り坂に入ったのです。率直に言って、戦後生まれの人々の漢文学習と理解はすでに戦前のレベルに達することは極めて難しいのです。現在、日本の一部政治家は基本的な漢字の日本語読みさえ間違えて話しますし、書く漢字は小学生にも劣るものです。日本は古くから大陸と海を隔て、自然資源や文化資源は極めて貧しい国でした。もし積極的に中国からの文化を受け入れなかったら、日本が独自の文化を形成することはできなかったのです。日本文化は中国文化の基礎の上に形成されたものと言えるでしょう。中国文化はすでに日本人の血液中に溶け込んでおり、捨てたり手放したりすることはできません。現在であれ未来であれ、日本人はこの点を忘れてはなりません」

『岡村繁全集』の中国語訳本の序文中、王元化氏は感慨を込めて「もし中国学術文化の価値が中国自身に限らないとしたら、私たちの中国学術文化研究の視界の範囲も本国の範囲に限らない。ここにおいて『岡村繁全集』という外国の中国文化研究者の全集が中国で出版されることは、ひとつの特殊な意義を持つことなのだ」と述べている。

これについて、岡村先生はほぼすべての中国の古典書籍が現代社会、とりわけ現代日本社会に重要な意義を持つと話している。彼によれば、現在の日本の若者は思想上西洋文化を崇拝していおり、生活スタイルはますます米国に近づいている。これは現在の日本社会にさまざまな問題を招いているという。たとえば、学生は先生を敬うということを知らない。若者は年配者を敬うことを知らない。そして、お互いの間に問題や揉め事が起こったときには実力で決着をつけようとするなどだ。これらの問題は、中国の先賢が千年以上も以前にすでに各種の古典を通じて彼らの知恵を書き伝えてきているもので、それは現在まで伝わっている。このため教育と導きがあり、現在の若者も欧米文化を受け入れる情熱で中国古典文化と思想を学び伝えれば、日本は自らの独自の文化を保ち、全面的に西洋化、米国化されないはずだというのだ。

岡村先生は漢学の伝承と発揚を生涯の勤めと任じており、多数の書物を著し、多数の教え子を持つ。現在でも彼は毎日中国の古典書籍を閲読し続けている。また、中国の国学研究と日本の漢学研究の現状にも非常に関心を払っおり、九州大学東英寿教授が千年も失われていた北宋の著名な文学者・欧陽修の書簡96通を発見したことなどについても知っていた。また、古典と伝統文化が中国国内に出現し復興する流れには、岡村先生は中国語で「好、好、很好!」と讃辞を送った。

別れ際に、岡村先生は記者のために自らクルマのドアを開け、笑顔でこう言った。「私は今年91歳になりますが、生きているうちにかなえたい願いがあります。それは、再度中国に行ってみたいということです。ぜひ北京で再会しましょう」。(文=謝宗睿 編集=張一)

 

人民中国インターネット版 2013年8月28日

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