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漢学研究の大家に聞く③ 東英寿氏

「96通の書簡研究に中日共同の努力を」

 

2011年10月、日本中国学会第63回大会で、ある研究者の発見に関する報告が大きなセンセーションを巻き起こした。続いて関連の原稿は上海古籍出版社に送られ、同社は中国各分野のオーソリティーに確認を依頼した。1カ月後その発見は専門家によって確認され、同社が発行する『中華文史論叢』2012年1期(3月発行)に全文が掲載された。ここから、この発見は正式に中国学術界に幅広く認められ大きな反響を呼んだのだった。

その研究者こそ、九州大学大学院比較社会文化研究院の東英寿教授だ。10年を費やした研究と考証のもと、すでに失われたものとして1000年が経過した、宋代の政治家で文学者の欧陽修の96通の書簡が日本で再び人々の前に現れたのだ。この発見は、中日両国学界の欧陽修研究者に大きな驚きと興奮をもたらしたのみならず、『全宋文』『欧陽文忠公集』などこれまで伝わってきた古典著作の改訂をうながすほどの大事だった。

2013年3月、九州大学の助成を受け『欧陽脩新発見書簡九十六篇』(東英寿著)が出版された。この本では全面的に研究領域の最新の成果と収穫が記されており、中日両国学界の支持と同意を得ている。

新たに発見された96通の書簡の中には、宋代の政治家で文章家の王安石に宛てたものがあるなど、この発見は欧陽修本人の研究に大きな意義があるだけでなく、この時代に関するそのほかの研究にも重要な価値を持つ。また、この発見は中国大陸はもちろん、台湾地区でも注目を集め、大学や研究者の招きを受けることになった。これについて東教授は、「96通の書簡を発見したのは私ですが、これに続く研究作業には中日両国研究者の共同の努力が欠かせません」と語っている。

東教授は、この研究に10余年の歳月と百万円にも上る費用をつぎ込んできた。どのような原動力が、こうした傍から見れば無味乾燥とも思える研究仕事に彼を打ち込ませてきたのだろう。

東教授はこの点について次のように話してくれた。「私には多くの趣味があります。水泳が好きですし、野球を愛しています。大好きなチームを応援するために、ゲーム前から学生たちを連れて球場のいつもの場所に陣取り、掛け声を練習します。ひいきのチームが勝とうが負けようが、あきらめることなく、ずっと応援し続けます。こうした趣味と同じく、漢学も私にとって生涯関心を持つものです。好きだからこそ、少しも無味乾燥だなどとは思いません。それどころか、一つひとつの研究成果がとてもおもしろく感じます。好きだからこそ、自分の新発見を確認するため全身全霊で研究に打ち込み、研究の夢に驚いて目が醒めることさえよくあります。好きだからこそ、時間もお金も惜しいとは思いません。資料をそろえるためにクルマ1台に匹敵するお金を費やし、はるかかなたの図書館にも必ず自ら出かけて行きます。好きだからこそ、頑固なまでにこだわるのです。もし10以上もある版本の欧陽修文集を頭から最後まで仔細に比較照合しながら何回も何回も読まなければ、その異同を発見することは難しかったでしょう。好きだからこそ、自らの研究成果を極めて大切にし、一字一句に対しても根拠を求め、ほんの少しの瑕疵や漏れもないよう、まるで自分の子どものようにいつくしむのです。好きだからこそ、いつも幸運が付き添ってくれ、研究が頓挫しかけて独りやけ酒を飲んでいる時でさえ、突然ひらめくことがあるのです」。

興味・関心はなるほど最大の教師で、研究方法と同様に重要だったのだ。大きな業績を持つ漢学研究者として、東教授は「中国の歴史と文化に対して研究を行う場合に最も重要なポイントは、必ずまず日本の古くからの中国文化に対する尊重と同意を受け入れることです」という。

彼は、「現代日本の基本的道徳は江戸時代の儒学を基礎にしており、中国で失われて久しい多くの古典著作と伝統が日本では非常によく保存されています。これらは、日本の漢学研究者が中国の歴史と文化を研究する場合にとりわけ恵まれた点です。まさに、中国文化へのあこがれがあってこそ、私たち日本人の祖先は南宋時代に中国からたくさんの書物を買い求めたのです。日本の教科では、中国古代の漢文や詩歌は外国語ではなく『国語』として学ぶのです」と分析する。

そして最後に東教授はこんなアドバイスをくれた。「普通の日本人として、私たちの名前は漢字で書き表すのが普通です。日本の漢学研究者として、私たちは日本と中国が歴史と文化の分野で切っても切れない血脈を伝える関係であることを知るべきです。中日両国の間では政治上でどのようなな食い違いや対立があるにしろ、中国文化は日本文化の一つの“根”になっており、これは変えることも否認することも永遠にできません。私は両国の研究者と一般の民衆が中日間の古くからの文化の交流と伝承を大切にし、永遠に政治などの原因で両国文化の根本を傷つけたりしないよう心から願っています」。(文=謝宗睿 編集=張一)

 

人民中国インターネット版 2013年8月28日

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