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岩絵の具で伝統の「美」を強調 画家 袁野 氏

 

「荷舞薫風」  「桂子結子」 

文=本誌特約ライター・李艶平

「応物象形、随類賦彩」とは、絵を描く際に対象の形体を的確に表し、対象や時間、場所に応じて異なる色彩を施すことだ。この理論を踏まえて生活の美しさを表現することこそ、中国画の画家である袁野氏の作品テーマだ。

 袁野氏

明るい色合いで独自の風格

袁野氏は1967年、江蘇省徐州市沛県に生まれた。彼の作品は、かつて中国文化部(文部科学省に相当)の主催による「国際中国画大展・コンクール」で栄誉賞を受賞し、カナダの「楓カップ」中国画大会で入選を果たし、マカオ(澳門)の「現代中国名家書画展」では国際芸術サロン賞に輝いている。袁氏の作品は明るい色合いで、独特な風格が漂う。2010 年の上海万博では、彼とフランスの芸術家による絵画作品がフランスパビリオンで展示され、彼は出展に招待された唯一の中国人画家となった。

袁氏の作品題材は、青銅器、焼き物、野菜、果物、草花、昆虫、鳥類など多岐にわたる。中国の文化的要素と日常生活の事象とを結び合わせ、また精神的要素と物質的要素を新たに組み合わせ、さらに濃厚な色彩に線と造型芸術を融合させて歴史と現代、伝統と斬新さが入り混じった独特なスタイルを形成し、新旧の境界を超えて、東・西洋絵画への理解におけるボトルネックを打破した。

技法以外に絵画素材も研究

上海市虹橋古玩城(骨董市)にある袁野氏のギャラリー「臥雪堂」で、私は袁氏にインタビューを行った。「臥雪堂」は、色とりどりで荘重な世界を作り上げている。真正面に一体の菩薩像があり、周囲の壁には彼が各時期に創作した作品が展示されている。かすかに聞こえてくる仏教音楽の中で、袁氏は自分と絵画の間に結ばれている縁について語った。

家庭環境の影響もあり、袁氏は幼い頃から漢詩を好み、12歳の頃に絵画を学び始めた。彼は大学時代に工業デザインを専攻し、系統立った造形美術の学習に取り組んでいた。絵画の基本技能をしっかりと身につけるために、彼は中国美術学院の中国画学部、西洋画学部で学び、西洋画と中国画の鉱物顔料(岩絵の具)の製造と活用について熱心に研究していた。卒業後、袁氏は一時期広東省の肇慶博物館で働いていた。館内にある多くの焼き物や青銅器、古代書画は彼の視野を広げ、精緻で多様な形をした焼き物と青銅器の紋様は、彼を夢中にならせた。中国画の技法と色彩を通じて中国の悠久の歴史と多彩な文化を巧みに表現し、博物館の美しい青銅器の紋様と多種多様な焼き物を絵画に取り入れて、歴史と文化の美しさを再現するにはどうすれば良いのか。このことに彼は非常に大きな興味を抱いた。

 「古韻悠々」

宋・元代以来、文人画は絶えず中国画壇の主役として君臨してきた。黒、白、灰という墨色の変化と線を重視するその芸術風格は、哲学や世界とも呼べる域に達した。袁氏は、中国の水墨画が現代生活を表現し、かつ伝統を受け継ぎつつもこだわらないように発展を遂げながら世界に広く普及するためには、色彩の問題を解決すると同時により広範囲な伝達手段が求められると考えている。特に豊かで多彩な現代生活を表現し、素晴らしい作品を生み出すためには、イノベーションを敢行することが非常に大切だ。西洋画を熱心に研究した後、袁氏の視線は「岩彩」という昔ながらの素朴な鉱物顔料に注目した。岩彩画には自然由来の原料が用いられており、絵画素材の一つとして、この鉱物顔料は早くも古代に広く使用されていた。岩彩画は中国美術史、ひいては世界美術史において輝かしい一ページを刻んだ。古代に中国で制作された「人面魚紋彩陶盆」、馬王堆などの古墳から出土した帛画と漆画、敦煌壁画をはじめとする中国の石窟壁画などは、岩彩画の典型的な代表例だ。しかし、元代より盛んになった「文人画」や「水墨画」の台頭により、岩彩画は中国画壇の脇へ押しやられた。

焼き物の「美」を絵画で表現

模索と熟考を重ねた末に、袁氏はこれら古代の文化的要素を生け花芸術と結合させることを決意し、中国画の絵画技法で「瓶花」シリーズを創作する試みに着手した。1995年以来、袁氏はまるでひらめきを存分に発揮させる舞台を見つけたかのごとく、「瓶花」シリーズの作品創作に情熱を燃やした。中国の焼き物の造形は非常に豊富で、その歴史自体が中国史の一部でもあるため、袁氏は常により深くて広い視野から焼き物を研究し、知識の習熟に努めた。また創作のひらめきと深みも経験の蓄積によって多彩になっている。中国文化への敬意、文化的要素への高い認識と解釈、現代生活に対する強烈な印象、これらの要素が袁氏の創作活動に溢れており、美のメッセージと芸術的な生命力もそこから醸し出されている。

今日、中国の現代芸術家はルーツを追及すると同時に、現代生活における感性も描き出そうとしている。こうした考えに基づき、袁氏の岩彩画は中国画と西洋画の境界を乗り越え、中国画の技法を生活風情と融合させた色鮮やかな絵画の新境地を切り開いた。彼の作品は中国絵画の伝統に立脚しつつ、西洋芸術の美的センスも取り入れ、現代芸術の思想と文化的要素を有機的に融合させている。それゆえ、中国以外に日本、マレーシア、モナコ、フランスなどの国々でも、彼の作品は広く認められている。

「鼎盛気象」

美しい心と美しさを見いだす目を有する者だけが、生き生きとした美しさを表現することができる。袁氏の作品は、まさにそのことを物語っている。例えば、「萌冬」は、淡泊な墨の色合いで物寂しい雰囲気を放っており、絵の奥にはうっすらと緑色の影が見えているかのような感覚を抱かせる。「国之卉」は、わずか数筆でボタンの魂を際立たせている。「月下六喜図」では、六羽のカササギが月光を浴びてゆらゆらと揺れる竹の影と遊んでいる風景が巧みに表現され、非常に趣に富んでいる。「江南夏」では、花瓶に生けられているハスの花の清純さが描写されており、まるで上海の優雅な情緒を醸し出しているかのようだ。「消夏」のサクランボと芭蕉の葉は、墨色をした背景において赤い実と緑の葉を際立たせており、見る人を物思いにふけさせる。「瀟湘夜風冷」は、まるで岳陽楼に身を立たせて、薄暗い夕暮れを見渡しているかのような気分にならせる。「故園春秋」の中でオレンジ色に実っている柿は、故郷にいる家族の万事順調を祈る気持ちを表現している。

 「瀟湘雲水冷画屏」

 

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