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中国で話題沸騰の宮廷ドラマが日本登場 『宮廷の諍い女』

鄭暁龍監督にインタビュー

中国独自の物語を世界共通の価値観で

聞き手=李明慧

プロフィール 

鄭暁龍 (てい・ぎょうりゅう) 中国国家一級脚本家、著名監督。全国「優良テレビ芸術従事者100」、北京「テレビアーチストベスト10」に選出。第14回テレビドラマ白玉蘭賞最優秀監督賞、第27回テレビドラマ飛天賞最優秀監督賞、中国テレビドラマ産業20年貢献突出監督賞受賞。脚本、監督としてかかわった主な作品に『渇望』『編集部的故事』『北京人在紐約』『金婚』『春草』などがある。 

――『甄嬛伝』制作の背景について教えていただけますか。

鄭暁龍(以下、鄭) 『後宮—甄嬛伝』はまず2006年にネット小説として発表されました。私の妻の王小平(作家、脚本家)が教えてくれたのですが、読んでみてよく書けていると思いました。しかし、大きな問題がありました。それは、当時「古装劇」と呼ばれる時代劇は国内で制限が行われていて、海外市場も期待できなかったのです。それでも私は、内容が良ければ制限も恐れることはないと考え、版権を獲得しました。そして、これをどういう形にしていくか考えました。というのは、小説は架空の時代「大周朝」を舞台にした愛情物語だったからです。私は実際の時代を背景にすることが必要だと考え、清朝の雍正帝の時代を舞台にして、実際の歴史と結びつけました。また、単なる愛情ドラマではなく、より人間的な視点でその時代を反映すれば、愛情物語をさらに重厚なものにできると考えました。 08年に本格的に脚本制作が始まり、10年にクランクインしました。11年末から一部地方局での放送が始まり、北京や杭州で好評を得ました。12年3月からは衛星局で全国的に放送され、間もなく大きなセンセーションが巻き起こったのです。同年後半には台湾で放送されて人気となり「甄嬛現象」と呼ばれました。ひとつのドラマがこれほど社会的な議論を呼ぶのは、この十数年来なかったことです。人々がみな甄嬛を論じたのです。現在、米国の会社がこのドラマを買い、6部のテレビムービーと24話の連続ドラマにするため、翻訳と編集を進めています。また、このドラマはシンガポールやマレーシアでも大きな反響を呼んでいます。

『甄嬛伝』が国際市場で認められたのは、これが人間性を描くドラマであり、封建社会での皇帝と側室らの関係を通じて、人と人の関係を描くものだからでしょう。また、皇帝が権力を持つ社会の本質をあばき批判しています。その後、多くの人がドラマと職場の人間関係を結びつけて語りましたが、これは私にとって意外なことでした。ドラマ撮影中はまったくこうしたことは想定していなかったからです。私は日本の視聴者のみなさんがこのドラマをどうお感じになるかとても関心があります。職場関係と結びつけて考えるでしょうか、そんなことはないでしょうね?

――『甄嬛伝』がこれだけの人気になった理由についてどうお考えですか。このドラマの見どころと魅力はどこでしょう。

 台湾の著名作家瓊瑤が非常に良い評価をしてくれました。彼女によれば、このドラマは単なる愛情ドラマではなく、愛していても一緒にいられない、どれだけ愛しても得られない、そうしたものが描かれているというのです。このドラマの時代、本当の愛を手に入れるのは非常に難しいことでした。皇帝でさえ真実の愛と幸せを手にすることはできなかったのです。劇中では、甄嬛の周りの人々、彼女と共に後宮に入った人々、皇帝や皇室の人々、誰もが幸せな結末を迎えられません。これは悲劇です。私は撮影にあたって、その感情をよりきめ細かく、よりリアルに表現しようとしました。

――『甄嬛伝』は中国大陸部で大ヒットしただけでなく、台湾地区でもブームになり、国外でも認められました。撮影にあたっては、当初からアジアや国際市場をターゲットにしていたのですか。

 撮影現場で役者を指導する鄭監督

 それはありません。私はドラマ制作の最初から外国で放送されることを前提にしたり、外国の人々の好みに合うかを考えるようなことはしません。私は、人類共通の価値観を考え、人類共通の価値観で世界を認識し関心を持ちます。それでこそ文化を共通のものにできるのです。さもなくば、出来上がったものは自分だけのものになり、国際的なものにはなりません。たとえば、私たちは人間という視点から物語を描いていますが、これは人類に共通のものです。封建社会への批判も人類共通のものです。封建社会において人間性がないがしろにされる中で人々は苦しみながらも幸せを求める、これも人類あるいは国際社会に共通のことです。私は基本的に、共通の価値観があれば異なった文化が相互に認め合うことはできると思います。もしある階級、階層という視点から出発して作品を作ったら、広範に認められることはなく、国際市場にも受け入れられないでしょう。

――『甄嬛伝』の国際市場での成功は中国文化産業が成熟したことを示すひとつのバロメーターと言えるでしょうか。

鄭 私はこの作品が国際市場に受け入れられたからといって、それが中国文化産業の成熟を示すことにはならないと思います。少数の作品の国外進出だけで文化産業全体の成熟とは言えません。中国の文化産業が成熟し、本格的に国外に打って出るには、多くの優れた作品が他国の主要メディアで取り上げられる必要があります。また、ドラマだけでなく、映画、文学作品などが認められなければなりません。私は中国の文化産業の成熟と海外進出には、長期にわたる努力が必要だと思います。

――このドラマの監督として、日本の視聴者のみなさんには、ドラマを見るにあたってどういう点に注目していただきたいとお考えですか。また、今後日本という市場に向けて何か計画していることはありますか。

 日本のみなさんには物語と人物に注目していただきたいと思います。私はどこかの市場を開拓するためにドラマを撮影するつもりはありません。それをするくらいなら、むしろ自分の視野を広げ、胸襟を開き、自分が多くの場所に行って人類共通のものを理解し、美しく、暗く、複雑な人間性をより深く表現していきたいと思います。

私は現在『羋月伝』という古装ドラマを準備しています。これは中国の戦国時代を舞台にした物語です。出国した王女が秦の国に嫁ぎますが、その後人質として燕の国に送られます。そして、やがて秦に戻り、中国史上初の皇太后となるという物語です。また、オペラ『トゥーランドット』の物語を再構成して映画化する話も進んでいます。特に日本市場や国際市場を目指して始めたわけではありませんが、どちらも素晴らしい物語なので、国際市場でみなさんに喜んでもらえるのではないかと思っています。

――監督は現在、チャン・イーモウ監督が映画化し日本でもたいへん有名な『紅いコーリャン』をドラマ化する準備に入っているそうですね。

 私はモー・イエン(莫言)の小説である『紅いコーリャン』は、人類共通の価値観を表しており、人間を描く物語であり、全人類の物語あり、人間性を描く物語だと思っています。まずしっかり物語を描き、登場人物をよく演じ、人物像を作り上げ、細部まで理にかなったものにし、最後に化粧や服装、美術などを考えます。 『紅いコーリャン』には抗日戦争を描いた部分があります。日本の視聴者はこれをどうとらえるでしょうか。作品の中で、日本人が中国で行ったいくつかのことをリアルに反映するよう考えていますが、私は憎しみをかき立てるために歴史を表現することを望みません。リアルに歴史を描いて戦争の教訓を受け入れることが、憎しみをかき立てるよりさらに重要だと思います。

 

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