本誌特約ライター・文君
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プロフィール |
丁傑(てい・けつ)1958年、江蘇省南通市如東県生まれ。中国美術家協会理事、中華海外聯誼会理事、中国文学芸術界連合会美術芸術センター主任。著作に『丁傑山水画選』『丁傑画集』『当代画家名作欣賞――丁傑作品選』など。その作品は日本、フランス、シンガポールなど十数の国・地区の多数の博物館に所蔵されている。 |
北京の人民大会堂といえば、中国共産党や国家、人民団体が政治活動を行う重要な場所であり、同時に国家指導者や民衆が政治、外交、文化活動を行う場所でもある。ここに展示されている数幅の巨大な山水画には、高い山や大きな川が描かれており、雄大で迫力があり、厳粛で優雅な場所にあって際立って非凡なさまを見せている。人々はこの雄壮で美しい画面から、作者の広い胸襟と洒脱な心を感じ取る……。
この作者こそ丁傑氏だ。彼の作品は独特の魅力で多くのコレクターから高く評価されており、国家指導者が海外を訪問する際に記念品として各国の要人に贈られた作品もある。
清代名画家の末裔
丁氏は独特の山水画精神を持っており、彼は自分の作品で「新意を法度の内に出だし、妙理を豪放の外に寄す」という蘇軾(蘇東坡)の名言を裏付けている。彼は大家の技法や長所を学び、現代名家の良い点を取り入れ、作品の中に南派山水画の美となめらかさ、北派の力強さと重厚さを融合している。
1958年、彼は江蘇省の歴史ある如東県豊利鎮の代々文人を輩出した家庭に生まれた。丁氏の8代前の祖先である陳嵩は清の乾隆帝時代の著名な画家で、当時劉塘、張船山、鄭板橋などの巨匠と交流があった。陳嵩は引退して北京からふるさとに帰る時に6箱の書画を持ち帰った。
これらの作品は、新年や祭日ごとに客間に飾られ、精美な作品は丁傑少年に大人になったら画家になりたいという夢を植え付けた。
幼い頃から丁氏には画才が備わっていた。家人の記憶によると、幼い彼はある時庭で箸を使って地面に隣家の梅の花を描いたが、一枝一枝と描き庭いっぱいになったという。彼はこうして幼い絵を描きながら少年の日の夢を紡いでいったのだった。
後に彼は優秀な成績で南京師範大学美術学科に進学し、譚勇氏ら優れた先生に師事して山水画を学び、さらに中央美術学院中国画学科で造詣を深め、郭怡宗、白雪石ら名画家の指導を受けた。学校では山水画、人物画、花鳥画を合わせて学び、模写から創作まで、うまずたゆまず努力を続け成長していった。
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『石魂』2009年 (366cm×144cm) |
不易と流行を融合
初期の丁氏は巨匠・黄賓虹の影響を深く受けていた。黄賓虹の作品は重厚で優美、深い文化的含意を持ち、学ぶのは特に難しい。しかし、丁氏は黄賓虹の「法は理の中から来るもので、理は大自然の変化の中から来る」という主張を守り、先人の蓄積した水墨画の技法・言語と技巧の研究に没頭した。同時に、彼は水墨画の技法が時代に即応し、絶えず継承と革新を続けるべきだと心に刻んだ。彼は成熟した技法の重視を主とする水墨山水画に頑なにこだわっているわけではない。彼は黄賓虹を学んだが黄賓虹とは似ていない。またほかの黄賓虹学習者のように積墨法(濃淡を表現する技法)の互いに大差ない技巧を競うこともない。むしろ多くの濃淡墨点の積み重ねの中で、次第に強めている。とりわけ最後数回の濃墨点の筆遣いがはっきりと認められる。
このように、丁氏の山水画には墨の色の豊富さと重厚さがあり、さらに筆さばきの洒脱さと鋭敏さを持つ。彼は黄賓虹の「筆ごとに清くはっきり」(黄賓虹は小さい頃から教えを受けた筆墨の急所だと話していた)の筆の勢いと力を強め、点の蓄積による過度にこなれた蒼茫と質朴さを割愛した。彼の『白雲風散尽』『山静不知雲出没』『山高雲抱石』などの作品はこの傾向をよく表している。
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『大地旋律』(その一)2011年 (366cm×116cm) |
筆遣いのリズムと韻律に対する興味から、丁氏の山水画の中のリズムと旋律感ある表現が、彼の山水画の大きな部分を構成しているのかもしれない。例えば、丁氏は石林や張家界といった類の自然山水の奇観に感じて、符号を再配列するリズムをつかみ取る。『石魂』という作品では、丁傑氏は放射状のやじりのような石で四方に拡散する強い張力を構成しており、これは視覚への刺激と文化的精神の融合であると同時に伝統と現代芸術の完璧な結合でもある。
ほかに『大地的旋律』はこの種の作品中の傑作だ。例えば『大地的旋律』(その一)の棚田は、現実の中から来ており、自然の煙雲が現れては消える中に無数の棚田の韻律を保って見る人の視覚を震撼させ、またその豊富な技法の変化と田園詩のような境地で人々の心を打つ。
実地写生から山水精神の発掘まで、内なる美を追求する丁氏の山水画は中国と西洋を融合し、南北に通じ、古今を結び付けており、その素晴らしさは相違と類似の間にある。著名美術評論家で中央美術学院教授の薄松年氏は彼の作品について、「丁氏の画作は古法と新意を兼ね備え、その境地は清新で、あざやかな民族的特色も持ち、また時代の精神と作者特有のスタイルも持っています」と評価している。
昔の人は、絵の作風が本人の性格と相似することを「画如其人」と言ったが、丁氏の人となりも「人如其画」であり、つまり謙虚で礼儀正しくて他人との折り合いがよく、態度が穏やかで立ち居振る舞いが上品だ。彼は「芸術は私が一生追い求めるものです。私はあらゆる困難を克服し、どのような環境であろうと決して絵筆を手放さず、きっと一生を芸術に捧げるでしょう」と語ったことがある。
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『鴨船来去碧波中』2000年 (45cm×45cm) |
『白雲風散尽』2006年 (60cm×40cm) |
人民中国インターネット版 2014年3月
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