北京のグルメといえば、まず思い出されるのが北京ダック。その北京ダックについて北京人に「どの店のダックが一番おいしい?」と聞けば、最初に名前が挙がるのが「全聚徳」(ぜんしゅとく)のはずだ。「全聚徳」は1864年に創業された150年の歴史を持つ老舗で、独特の調理法「掛炉(あぶり焼き)」で知られる。現在では海外進出にも積極的で、すでに東京にも支店を出している。
宮廷料理を民間に広める
「全聚徳」の創業者である楊全仁はもともと鶏やアヒルといった家禽類を商っていたが、長い間かかって蓄えた資金で「徳聚全」という果物やドライフルーツの店舗を買い取ってレストランに改造し、店の名前を「全聚徳」とした。
開業当時、レストラン同士の競争は激しく、楊は小資本ビジネスで成功するにはオリジナルなものを出さなければならないと考えた。その頃、焼豚や焼きダック料理は人気があり、特にお年寄りの長寿を祝う縁起物として欠かせない贈り物だった。そこで、彼は窯で豚をあぶり焼く調理法を参考にし、あぶり焼きのダックを作ろうと考えた。
彼は、以前宮廷に仕えていたコックを高給で雇いあぶり焼きのダックを作らせた。ここに、神秘のベールに包まれていた宮廷ダックが民間にもたらされたのだった。それは北京っ子たちの心をとらえ、「掛炉」ダックの名声も徐々に広まっていった。その初代コックは孫姓で「孫小辮」と呼ばれていた。その技は、2代目コックの蒲長春、3代目の張文藻、4代目の田文寛と受け継がれてきた。新中国成立後、「全聚徳」の「掛炉」ダック調理法はさらに成熟し、現在のコックは6代目となる。
美味の秘密は「焼き」にあり
「掛炉」ダックは果樹を燃料とし、特製の窯でアヒルを直火であぶる点に特色がある。果樹は木の密度が高く質が硬いため、火力が強く肉をあぶって焼き上げるのに適しており、出来上がったダックにはわずかに樹木の香りが残る。特に重要なのは焼き加減で、焼く時間は45分ほどと決められている。焼き上がりのダックはなつめ色をしており、皮がパリッとしているが肉はやわらかいというのが特徴だ。2008年6月、「全聚徳」の「掛炉」ダック調理法は中国無形文化遺産に登録された。
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