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【泥人張】  芸術で歴史を記録する

 

徐悲鴻が絶賛した工芸

泥人形を色付けする王潤莱さん

中国の著名な近代画家徐悲鴻は、ある芸術評論文の中で次のように書いている。「もし誰かあるいは何かが賛美に値しないなら、私は何も言わない。もし誰かが一芸を持ち、それがかつて誰もなし得なかったものだとしたら、私は語気を強めて褒めたたえるのが好きなのだ。20年前に『泥人張』(張式泥人形)について書いたのがその一例だ」。「一例」とは、1943年に書かれた「対泥人張感言」(泥人張についての所感)のことだ。では、その泥人張とはいったいどのようなものなのだろうか? 徐悲鴻が言葉を惜しまず賛美するほどの特色はどこにあるのか? 答えを求め天津泥人張彩塑工作室に五代目継承者である王潤莱さん(58)を訪ねた。

現実の生活を源泉に

17歳で泥人張四代目継承者の張銘(1916~95年)に師事した王さんにとって、工芸家としての生活は瞬く間に40数年が経過したという。そんな王さんの泥人張について語る口調は、まるで立て板に水でよどみがない。彼によれば、伝統的な泥人形と泥人張作品の最も大きな違いは「真」の一文字に尽きるという。「真」とは、まず形も精神も備わっており、その内容が現実の生活を源泉としながら現実の生活よりも高いことだという。清の道光年間(1821~50年)に、張明山(1826~1906年)が泥人張を生み出して以来、彩色を施した泥人張は現実主義の手法によって、現実の生活をテーマにして生活感のある人物や風俗、物語を芸術的に抽出し、生き生きとして味わいのある泥人形作品を発表し続けてきた。

「この組作品は『戯禽図』と言います」と王さんが示す展示ケースを見ると、2人の子どもと2羽のオンドリが目に入ってくる。2人の子どもが闘鶏に興じている。攻めるオンドリと守るオンドリ、そして緊張して戦況を見守る子ども。作品には塑像芸術の張力と同時に、趣味性と鑑賞性が満ちている。子どもの元気さや活溌さ、無邪気さやわんぱくさが、こうした場面設定を通じて余すところなく表現されている。「泥人張作品の出来は、『魂』を塑像の中に注入できるかどうかにかかっているのです」と王さんは話す。

「戯禽図」(写真提供・王潤莱)

結ばれた日本との縁

周恩来総理が池田大作氏と会見した様子を再現した作品(写真提供・王潤莱)

 本物そっくりに作る高い表現技術によって、泥人張は中国の幅広い人々に好まれるだけでなく、海外からの注目も集めている。1983年にある日本人が、鍾馗様が親友と妹を結婚させるためにあの世から戻ってくるという京劇の演目を扱った『鍾馗嫁妹』という作品に魅了され高額で購入したいと申し出た。ただ、この作品は国の文化財に指定されていたため、その人はやむなく複製品を日本に持ち帰ったのだった。この複製品は現在でも日本の芦屋市にあるエンバ中国近代美術館の泥人張専用展示室に陳列されている。

この話になると王さんはとても楽しそうで、「『鍾馗嫁妹』は中国の鬼神伝説です。泥人張二代目継承者の張玉亭(1863~1954年)は当時の汚職役人の姿を小鬼に写して儀仗隊の列に加え、庶民のうっぷん晴らしをしたのです。このように、もし単純に民間の芸術、おもちゃだと考えるなら、それは泥人張を低く見積もっているのです」

もう一つ日本と結ばれた縁があるが、それは11年前にさかのぼる。2004年、日本の創価学会訪問団が天津の周恩来鄧頴超記念館を参観した時に、彼らは館内にある生き生きとした周総理と鄧夫人の彩色泥人張に感心した。彼らはその場で天津泥人張彩塑工作室に、30年前に周総理と池田大作名誉会長が会見した際の情景を作品にしてほしいと依頼した。王さんが率いるチームは半年をかけ作品を完成させた。「周恩来総理会見の像」と名付けられた作品は、同年12月9日に東京牧口記念館にお目見えし、大きな注目を集めた。

「形」で記憶を伝える

180年余りの歴史を持つ彩色泥人張の工芸は、長く家族によって継承されてきた。しかし、この芸術をより良く伝えていきたいと、四代目継承者の張銘は、家族を越えて王さんに技術を伝えたのだった。しかし、さらに次の世代への継承について尋ねると、王さんは「現代社会が伝統工芸に与えている衝撃は巨大です。一つの技能を身に着けるためには、長い時間をかけて磨き上げることが必要です。普通の人なら少なくとも10年かけてようやく初歩的にこつをマスターできます。大げさではなく、私は40年この工芸に携わっていますが、この数年でようやく納得のいく仕事ができると感じられるようになりました。今の若者は落ち着きがなく、技術を磨くことに専念できません」と憂慮をあらわにした。

王さんは数年後には定年だが、それは彼にとって新たな始まりに過ぎない。彼によれば、現代化の急速な進展に伴って、多くの中国伝統の職業が驚くべき速度で失われているという。このように失われた、あるいは失われつつある職業は、いずれも中国の歴史や文化における極めて重要な部分であり、多くの文字を費やしたり図解して記録するだけでは不足で、「形」として記憶を継承することが必要だという。

 『中華百業』シリーズのうち「売茶湯」(写真提供・王潤莱)

「彩色泥人張は棚に飾る芸術であり、造形美術であり、作品の寸法が人々の鑑賞に適しています。人物の表情や装い、道具が真に迫っており、いろいろな職業の特徴ある姿形を完璧に再現することができます。この一連の作品は『中華百業』と言います。私は引退後の余生はすべてこの『中華百業』の制作に捧げたいと思います」という王さんによれば、1セットを作り上げるには、作画から人形の完成まで少なくとも1カ月の時間がかかるという。「中華百業」シリーズの作品について王さんはすでに40枚以上の図案を描き上げており、半成品にまでしたものが10セット余り、完成品は6セットある。この作品を作り続けていくという彼の唯一の心配は、「百業」すべてを完成させるのに自分の持ち時間が足りるかどうかだ。

 

人民中国インターネット版 2015年4月7日

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