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【老美華】  「孝行」で知られる布靴

 

「ない」とは言えない

 繍花鞋を手にする董建設さん

中国では、故郷を離れて働いている人々は春節を迎えると父母へのおみやげを抱えて帰省するものだ。もし天津人に両親への贈り物に何を買って帰ればいいか相談したら、十中八九同じ答えが返ってくるはずだ。それが「老美華」だ。

天津老美華鞋の創業は1911年、つまり辛亥革命の年だ。この清朝滅亡の時代に、共に滅んだ旧時代の悪習も多い。例えば女性のてん足だ。てん足の風習がなくなると、街中でてん足女性用の小さなてん足靴も売られなくなった。天津宜興埠(現在の北辰区宜興埠)に住む龐鶴年は、逆にそこに商機を感じ取り、てん足靴の店を開業しようと父親に資金協力を求めた。父親は出資者として条件を出した。それは、おばの龐美華の面倒を見るというものだった。彼は喜んでこの条件を受け入れただけでなく、彼女の名前を取って店名を老美華とし、片時もおばのことを忘れないようにしたのだった。ここから老美華は孝行の代名詞となって、天津に広く知られるようになった。

中国伝統の履物を扱う店として、老美華の経営理念には中国文化が色濃く反映されている。同社の総経理(社長・総支配人に相当する役職)董建設さん(59)の紹介によると「中国人の習俗では『ありません』という言葉は不吉で口にするのがはばかられます。このため店員には、来店されたお客様に対して『ありません』と言ってはいけないと指導しています。必ずお客様の求めに応じて、店内から要求通りもしくはそれにごく近いものを探して来てお薦めするようにということです。本当にない場合でも、求めに合わせて、次回の製造でお客様に満足いただけるものを作ります」

 

デニムに布靴が流行に?

古文化街にある老美華の店舗に並べられた布靴(写真・単濤)

 老舗の老美華は、すでにてん足靴店から各種伝統の布靴を生産する企業へと発展を遂げている。「杭元鞋」(男性用の黒い布靴)、「坤尖鞋」(てん足靴)、「繍花鞋」(刺しゅうを施した女性用の布靴)、「駱駝鞍」(ラクダの鞍の形をした綿靴)といった中国の伝統的特色を持つ靴は、いずれも老美華の店内で目にすることができる。「老美華の布靴はデザイン的には伝統に立脚していると同時に、最近は大きな技術革新も成し遂げています。例えば、私たちの布靴は少しぐらいなら水たまりのある路面でも平気です。すでに防水で変形しない靴を生産できるようになっているのです。また、防臭や油汚れに強いという面でもレベルアップしています」と、董さんは話している。

孝行で知られた老美華は、高齢者からとても高く評価されている。しかし、古い世代がいなくなった後も老美華は存続していけるだろうかという疑問が残る。これについて董さんは控えめだが楽観的に語っている。「伝統文化への回帰と重視が進むに伴い、レトロブームも熱を帯びてきています。天津の目抜き通りを行けば、多くの若者がデニムをはき、それに老美華の刺しゅう靴や杭元鞋を合わせているのを目にします。まるで新しい流行のようです」  完全手工品の布靴である老美華も、他の伝統工芸と同じく生産の自動化という課題に直面している。董さんによれば、老美華はもともと手の込んだ手工品であり、一貫して手づくりで靴を生産してきたという。例えばどの靴底もみな職人が36層の布を重ねて作り、麻糸81針刺し子縫いしている。「どの麻糸も人が手よりしなければなりません。私たちも機械よりを試してみましたが、機械でよった麻糸は少しふんばると切れてしまうなど、良くないのです」

老美華は技術革新に力を入れているだけでなく、近年は積極的に国外の大手靴メーカーとの協力を進めている。昨年は、日本のパンジー社と暫定的に合意した。双方は技術革新や市場ルートなどの面で協力していくという。

 

人民中国インターネット版 2015年4月7日

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