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哲学者の思考と詩人の感情で描く
画家 姚治華 氏

本誌特約ライター・諾曼 

 

瀑布に込められたもの

 

プロフィール
姚治華(Yao Zhihua) 画家。1932年湖北省孝感市生まれ。1961年中央美術学院中国画学部卒業。李可染、葉浅予、蒋兆和、李苦禅らの巨匠に師事。現在は中央美術学院教授、中国美術家協会会員。日本や韓国、フランス、米国などで個展を開催。1991年に日本の「国際平和文化宝鼎芸術大賞」を受賞、1998年に国連NGO国際平和美術展「国際文化学術賞」を受賞。山水画や人物画を得意とし、代表作には『黄河頌』などがある。

姚治華氏と言えば、北京の人民大会堂のホールにある大型作品『黄河頌』を思い出さずにはいられない。彼が『黄河頌』として最も早く描いた作品は人民大会堂内の東ホール北側に展示されており、人民大会堂を訪れた多くの人がこの前で記念写真をする。作品の壮大な勢いは見る人の心を大きく揺り動かす。作品を前にすると一人で険しい岸辺に立っているように思え、波が押し寄せ岸を打つ音が耳に響き、飛び散った波のしぶきが正面から顔に当たってくるようだ。

姚氏は青年時代に黄河の壷口瀑布に行って取材や写生を行い、生活を体験したことがある。壷口瀑布は中国でも第二の滝であり、黄河で唯一の黄色い滝でもある。盛んに水が流れる黄河は姚氏の心に大きくうねる波を巻き起こし、日本軍が侵入し国家存亡に直面した時期に、中華民族が奮い立って戦うという悲壮な場面が脳裏に浮かび上がった。彼は、居ても立ってもいられない気持ちに駆り立てられ『黄河頌』を描き上げた。彼の筆の下の黄河は勢いが盛んで、見る人の心に雷鳴を響かせる。この感覚は逆巻く黄色い波や巻き起こる水煙からだけでなく、険しく奇異な形の黒い石や深い谷からも伝わってくる。動と静の強烈な対比は、変化に富む線や色を通じて表現され、見る人の魂を奪うような素晴らしさだ。

山水画のほかに、姚氏は人物画にも長じており、さまざまな画法を融合させて革新を行っている。1981年、姚氏は四川省涼山イ(彝)族自治州に写生に行き、ちょうど年に一度の「たいまつ祭り」に出会った。この時の見聞や感じたものを作品に溶け込ませ、彼は『歓楽的火把節(楽しいたいまつ祭り)』を創作した。この作品では、民族衣装をまとった少女たちが、燃えるたいまつを囲み、手をつないで踊っている。美しく躍動感あふれる線は、人物の顔立ちや服装の輪郭を取るだけでなく、漂う白い煙から炎が舞い上がる様子も描き出している。この装飾性に富む画法は、にぎやかで豊かな内容を持つ題材に適し、さらにロマンチックな情緒を際立たせている。  

 

『黄河頌』 2006

192×505cm 

 

加山又造氏との交流 

姚氏は今年83歳になるが、自分が愛情を注いだ芸術事業について話し出すと、目がキラキラと輝く。芸術に携わって60年来、数多くの弟子を育成し、たびたび学生を連れて中国各地を回って素材を収集し、写生を行ってきた。また、黄山写生画院を設立して院長を務め、12回も学生と共に黄山に写生に行った。黄山を題材とするシリーズは姚氏の山水画の代表作でもある。

自らの芸術創作について、姚氏は以下のように語っている。「李可染氏の四つの言葉を、私は半世紀にわたって記憶し続けています。すなわち、哲学者の頭脳、詩人の感情、科学者の根気、曲芸師の腕前です。この四つの言葉が私のあらゆる芸術実践を指導してきました。学生時代にこうした巨匠たちに巡り合えたのは、本当に幸運だったと思っています。哲学者の目で物事を観察してこそ、物事の本質的な美をつかみ取ることができ、哲学者の弁証法的思考をもって生活の現象を考えてこそ、創作において黒と白、疏と密、蒼と潤などのさまざまな対比を深く理解でき、より豊富な表現を引き出すことができるのです」。また姚氏は、感情を込めて描いてこそ、人の心を動かす作品を創作できる、詩人の感情こそ最も凝縮された感情だと語っている。科学者の根気については、姚氏は「不撓不屈」と「慎み深さ」という言葉で自分らの理解を述べている。

また姚氏は、中国文化の海外普及の問題について、20数年前にさかのぼり、古い友人の加山又造氏との思い出から語っている。日本を代表する画家の加山氏は中国の伝統文化とりわけ宋代の水墨画を崇敬し、1984年、87年、90年と3度にわたって中央美術学院との学術交流を行った。当時中央美術学院で教壇に立っていた姚氏は、加山氏のスケジュール調整を担当し、また加山氏が八大山人記念館を見学したり、李可染、葉浅予、呉作人、李苦禅らの巨匠を訪問するのに付き添った。1988年、姚氏は日本で講師として特別講義を行ったが、その間、加山氏や当時東京芸術大学学長であった平山郁夫氏から歓待を受けた。日本で個展を開催した際には、加山氏が夫人と共に会場を訪れ、記念に「日中美術交流之花 祝姚治華先生画展成功」と書き記した。国境を越えた芸術の舞台で、二人の世界的芸術家は互いに尊敬し合い、誠実さと芸術理念で結ばれていた。これこそ芸術の魅力であろう。

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