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一人では完成させられない作品

 

彫刻刀が生み出す版画芸術

朝8時半、王文達さん(72)は自転車に乗って、天津市河西区にある静かな建物に時間通りにやってきた。中国の伝統的なデザインで造られた7~8平方メートルの部屋が王さんの作業場所だ。明るい窓のそばに置かれた事務机で、版画用の木の板と十数本の彫刻刀やのみを使って毎日作業に没頭する。楊柳青画社に在籍する国家級無形文化遺産プロジェクトの代表的伝承者である王さんと楊柳青年画との縁は、すでに半世紀を超えている。

十二支を題材にした『鴻運当頭』を彫る王文達さん。自慢の作品は1980年代に製作した16枚1セットの『西廂記』だ

1960年、楊柳青画社が天津周辺で研修生を募集した時、16歳だった王さんは連環画(中国風の絵本)の模写で培った基礎によって入社試験を突破して、河北の青県から天津へやってきた。当時、政府は伝承が途絶えかけた楊柳青年画を全力で救おうとしており、58年に天津楊柳青画店(後に楊柳青画社に名称変更)を設立。同画店は年画制作の技術を完全に保存し、楊柳青年画の保護と発展を担う公的機関となった。木彫りが好きだった王さんは2年目に木版彫刻チームに配属された。「あの頃は版木の数が多くて、半年学んだ後すぐに生産に回りました。技術を身に付けると同時に師匠について古い版木を整理しました。貴重な伝統的な年画がたくさん出てきたんですよ」

輪郭取り、刻版、印刷、彩色と進行する楊柳青年画の制作プロセスのうち、刻版は技術性が高く複雑で、特に重要な段階と見なされており、機械が取って代わることのできない手作業の技術だ。王さんによると、刻版には良質の木の板が必要で、楊柳青年画で使用する木は天津と河北で産出する梨の木の一種だという。この木は木目が細かく、硬さもちょうど良く、一般的な木材にあるような幅が不均等な木目がないため、彫り出した線がなめらかかつ整っていて、印刷に適している。王さんにとって難易度が高いと感じるのは人物の姿で、中でも顔は目や表情が緻密で生き生きしていることが求められるため特に難しい。「技術的な仕事なので、どこまでも精進を続けなければなりません。さらに芸術の素養を身に付け、美の見極めに対して深く理解することも必要です」。すでに70歳を超えている王さんだが、牡丹などの花を題材に中国画を練習することを日課とし、伝統文化について不断に研さんを積んでいる。現在、門下に2人の弟子がいるが、「口で言うより身をもって手本を示すほうが良い」というやり方を貫く。天津美術学院版画専攻出身の趙亮さん(30)は2012年から王さんの下で学んでいる。学校教育を受けてきた趙さんだが、中国の伝統技法を守り続けている師匠を通じて、中国文化について認識を新たにしているという。「師匠はよく『腕前は刻版の外にあり』と言って、芸術分野の知識にたくさん触れるように指導されます。そうすることで型にはまってしまうことを防げるのです」

 

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