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あこがれの「快板」に挑戦!

 

ラップのような早口言葉と、リズミカルな竹板の音――。初めて見たときから、あこがれを募らせていた中国の伝統芸能「快板」(クァイパン)に、なんとこのワタクシが挑戦しました!!

北京に住んでから、6年来の夢をかなえてくれたのは、日本語フリーペーパー『スーパーシティ北京』のメンメン。橋口いずみさんと、大内涼子さんです。

なんでも大内さんは中国漫才・相声(シャンション)の通であり、毎週末に市内で開かれている寄席にも足しげく通っているのだとか。今回、快板の師匠・于万海先生を紹介してくれたのも、通の大内さんでした。

がっ、しかし!!

この道およそ50年のベテランで、ラジオ番組の名司会者としても知られる于先生に「1日、弟子入りしよう」とはりきって挑んだのはいいのですが……。燃えるような闘志が、しょっぱなから打ち砕かれてしまったのです。

6年前に春節(旧正月)のステージで見た快板の演芸が忘れられず、文化街の瑠璃廠(リューリーチャン)あたりで購入したマイ快板。当時でも10元程度の安物でしたが、シロウトである私に、ものの良し悪しが判別できるはずもありません。

弟子入りした当日、そんなマイ快板を持参したところ、于先生に「ふんっ」と鼻で笑われてしまったのです! 先生の快板は、同じ竹製といえどもつやつやと光り輝き、たっぷりの朱色のふさが結ばれたものでした。

おまけに「チャッ、チャッ」という軽やかな音を出す金属部分は、私のはキカイの部品みたいなものですが、先生のはホンモノの清代の銅銭。これでは、笑われてしまうのも当然です。聞けば、通のみなさんは、骨董市場の潘家園で高価な品を手に入れるのだそうですが、私はそこからして大いなる無知を露呈してしまったというわけです。

心優しい先生は、半ばあきれながらも、メンツを立ててくれました。

「私が快板を始めたころは、自分で作ったものだった。師匠の快板の寸法をこっそり測って、竹を削って、穴を開けて……。しゃおりんのよりも、ひどかったよ。まあ、最初はそれで一生懸命、練習することです」

左手に5枚の竹板が連なった「節子」(ジエズ)を、右手に大きな2枚の板をつなげた「大板」(ターパン)を持ち、先生の教えのとおりに動かしてみるのですが、まったくうまくいきません。

焦れば焦るほど、負のサイクルにはまってしまい……。音は出ないわ、口は回らないわで、できの悪い生徒のために散々なレッスンとなってしまいました。それでも、私にとっては長年の念願がかなった至福のときだったのです。

つづいて席を移しての講義では、快板のイロハについて教わることに。快板は、相声の基本功(基礎)であること。快板にも相声同様、清代からの約200年の歴史があること。女性の快板師もいるが、人数は少ないことなどなど。興味深い話ばかりです。

竹板の持ち方だけはなんとか理解したつもりですが、先生のように力強く、軽快な音が出せるようになるまで、どのくらいかかることでしょう。先生がひとたび快板を打ち鳴らそうものなら、勇ましい武将の姿やとうとうたる大河の流れが目に浮かぶようでした。小さな部屋はステージとなり、大舞台となり、千軍万馬の戦場となりました。すっかり弟子ではなく、観客と化した私は「好!」(ハオ、いいぞ)といって、やんやの喝采を送るばかりでした。

先生のような講談はムリとしても、早口言葉ならいつかはマスターしたい。ふたたび闘志を燃やしはじめた私に、先生はアッサリと言い放ちました。

「ああ、しゃおりん、最初は騒音で近所迷惑になるから、自宅では練習しないで。どこか人のいないところを探しなさい。君のレベルだと、公園も難しいな……」

ええっ? 近所にある公園、世界遺産の天壇公園で練習しようかと思ったんだけど、そのレベルにも達していない。こうなったら、橋の下か??

そして、とどめの一言はコレでした。

「次に会うとき、まったく進歩がなかったら、見込みはないと思っているからね」

ヒエ~~~!!

厳しきかな、中国の師弟関係。1日弟子入りの後、いまだにベストポイントを探しつづけて、練習もままならない私でした。(『物語北京』(五洲伝播出版社)より)

 

小林さゆり (こばやし・さゆり)

フリーランスライター、翻訳者。長野県生まれ。大学卒業後、日中友好協会全国本部(東京・神田、現在は社団法人)に勤務し、機関紙『日本と中国』の編集を担当。2000年9月から5年間、中国国営の『人民中国』雑誌社に日本人文教専家として勤めたのち、フリーランスに。北京を拠点に、中国の社会や文化、暮らしなどについて、日本の各種メディアに執筆している。著書に『物語北京』(五洲伝播出版社)。 

 

人民中国インターネット版 2009年2月20日

 

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