文=段非平 写真=北京華録百納影視有限公司
中日合作テレビドラマ「蒼穹の昴」は、中国の視聴者の高い関心を呼んでいる。なぜなら、劇中の重要人物「西太后」が日本の著名な女優である田中裕子によって演じられるからだ。20年前、田中裕子は彼女が見事に演じた「おしん」像で全国的に知られ、今回、このドラマでまた中国のテレビ画面に帰ってきたのである。
西太后を演じるため、田中裕子は懸命の努力をし、中国の歴史に関する知識を学んだほか、事前に故宮や頤和園を訪れ、その生活環境を体感した。撮影期間には全力投球だった田中氏、最終仕上げの段階にあたり、記者はようやくインタビューすることができた。
――中国では多くの人が西太后をマイナスイメージでとらえていますが、田中さんはなぜ、この役を引き受けたのでしょう?
原作を読んで、原作にある西太后像に魅力を感じました。悪役とされている人物の心の中にある悲しみや喜びの心の揺れを演じたいと思いました。私はいつでも未知の人間に対して、非常に興味を持っているし、人間の内面は本当に奥深いと思っています。役者はその奥深さにどれだけ辿り着けるかが大切だと思っています。
もちろん、私は日本人であり、中国の人物、それも清朝の時代の権力のトップにあった人物を演ずることは最初から多くの限界があることはわかっています。しかし、国を越えて、時間を越えて可能の限り演じることで人物像に迫ることも出来るのではないかと思います。
――中国の俳優たちと共に演じるうえで、コミュニケーションに困難はありましたか?
お互いに言葉が通じないことの不便さを最初のうちは感じていましたが、何度かリハーサルをやっているうちに、何か心の言葉が通じると思うような瞬間があります。その時はとても深いコミュニケーションがとれたように感じました。全てのシーンでそれが出来たかというとそれは無理だったが、幾つかの大切なシーンでそれが出来たのでそれだけでもとても嬉しいです。
――今回は中国での初の撮影でしょうか?中国の撮影スタッフはいかがでしたか?
20年以上前に中国を訪れたことがあります。それは、日本のテレビドラマのロケでした。今回の中国再訪では感じたのは、たいへんな変化です。中国の撮影スタッフの技術レベルはとても進んでいて、みなプロフェッショナルで、嬉しい驚きでした。現場でも予測できないような様々なトラブルが起きましたが、スタッフの方々の笑顔がいつも励ましてくれました。みなさんとともに過ごした日々は忘れられません。また監督と中国の俳優さんたちとも黙っていてもだんだんと調子があうようになり、最後には分かれがたくなってしまいました。
――中国への印象はいかがですか?
中国は一言で言えば、国も人も空気も大きいなあと思います。皆が細かいことを気にせず、自分なりの生きる事を楽しんでいる印象があります。
――役作りのなかで、一番、重要だったポイントはなんでしょうか?
自然体で演じられたらと思います。いつも心に風を感じていたいと思います。自分は欠点だらけですが、それでも素直な気持ちで演じたいと思っています。
――田中さんの演じた「おしん」は、当時の中国を席巻しました。でも、田中さんは今回の中国ロケでは、あまり「おしん」のことは語りたくないとうかがっています。それはなぜでしょうか?
中国のみなさんの私への熱い気持ちには、本当に感謝しています。けれど「おしん」は私の演じた役に過ぎません。私はこれから演じていく役がみなさんに認められるよう願っています。「おしん」という、一つの役柄のうえに留まりたくないのです。
テレビドラマ「蒼穹の昴」は、日本の作家、浅田次郎の同名の小説を改編したものであり、小説は、この10年来、日本の書籍の市場で常にトップクラスである。北京華録百納影視有限公司の投資による、中日共同撮影の「蒼穹の昴」は、2010年のNHKの年頭を飾るものであり、 日本の主力メディアの金字塔作品に関わった中国初の国産テレビドラマである。中国の歴史ドラマにおいて重要な意義をもつのはもちろん、日本の女優が中国の西太后を全力で演じたという点においても、期して放映を待ちたい。
田中裕子 プロフィール |
1955年4月29日 大阪府池田市に誕生、明治大学文学部演劇科卒業
1979年 NHKテレビドラマで、芸能界にデビュー
1983年 NHK連続テレビドラマ「おしん」でアジアを席巻する
同年、「天城越え」でモントリオール映画祭最優秀女優賞受賞。2005年、「いつか読書する日」で「キネマ旬報」最優秀女優賞受賞。
映画出演作品
「天城越え」(1983年)
「二十四の瞳」(1987年)
「ホタル」(2001年)
「いつか読書する日」(2004年)
「ホームレス中学生」(2008年)ほか
テレビドラマ
「華岡青洲の妻」(1980年)
「おしん」(1983年)「あ・うん」(2000年)
「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」(2006年)
「帽子」(2008年)ほか
舞台
「テンペスト」(1987年)
「近松心中物語」(1989年)
「冬物語」(2009年)ほか
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人民中国インターネット版 2009年8月3日
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