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レポート・中日消化器医師交流最前線
「先進の腹腔鏡手術を伝え、より多くの患者を救いたい」

 

劉玉晨=文、写真

2013年4月28日、中日ハイレベル腹腔鏡(ふくくうきょう)下直腸がん切除手術シンポジウムが北京の中日友好病院で行われた。この日、招きを受けて訪中した大阪医科大学消化器外科の奥田準二准教授と中日友好病院の姚力医師はあうんの呼吸で、直腸がんを切除する腹腔鏡手術の見事な実演と解説を行った。記者は、シンポジウムに参加した第一線で活躍する中日両国の消化器医師たちが真剣にモニターを見つめる姿を目にした。奥田准教授や姚力医師は、長年にわたってこの手術の技術の研究と普及に尽力し、若い胃腸外科医師を指導し育てることで、中日両国の大腸がん患者たちに恩恵をもたらしてきたのだ。彼らが口をろそえて「医学に国境なし」と語るのが印象的だった。

手術室で行われる手術は、シンポジウム会場にライブで伝えられる(写真提供・高宝瑞)

1冊の本が取り持つ縁、10年来のよき師よき友

十数年前のこと。当時、傷口の小さい腹腔鏡手術によって悪性腫瘍を治療するという考え方は多くの国で普及しつつあり、中国の外科医もこの分野での模索を始めていた。姚力医師はすでに香港で関連の研修に参加したことがあったが、彼は優れた教師の必要性を切実に感じていた。そして、ほんの短期の日程で日本に出向いて学んだことで、彼はその優れた教師を探し当てた。

2002年6月の雨の午後だった。彼は短い休み時間を利用して、東京・御茶ノ水の書店で学術資料を探していた。その時に、ふと手にしたのが『腹腔鏡下大腸手術の最前線』という書籍だった。ページをめくると、全編にわたって美しい絵と手術写真を交えて手術の手順を説明してあり、彼はすっかり気に入ってしまった。彼は気に入った理由を「世の中には多数の教材が出回っていますが、その多くは文字中心です。この本のようにきめ細かく図を用いて手術を解説してくれる本こそ、私たちが本当に必要としているものなのです」と説明してくれた。帰国後、本の内容を読み進むに連れ、彼はぜひ著者と連絡を取りたいと思うようになった。その著者こそ、大阪医科大学の奥田準二准教授だった。

2003年、姚力医師は東京医科大学に1カ月にわたって出向く機会を得た。そこで、彼は日本滞在の最後の数日を使って奥田准教授を訪ねようと意気込んだ。しかし、折悪しく中国でSARS(新型肺炎)が発生してしまった。彼の所属する病院はSARS対策拠点のひとつで人員不足が深刻な状態になった。彼は訪日のチャンスを放棄し、SARS制圧の最前線に身を投じたのだった。

SARSが一段落すると、姚力医師は待ちきれずに奥田准教授に連絡し、中国に来て手術の実演と学術交流を行ってくれるよう要請した。しかし当時病院は、こうした交流活動に対しての謝礼を支払う予算がなく、航空運賃しか出せなかった。彼らには十分な資金がなく、協賛も得られなかったのだ。大部分の費用は姚力医師自ら奔走して工面した。さらに、彼らにはこうしたイベント開催の経験も不足しており、手術の実演では事前準備が不足していたため、活動は成功とは言いがたいものだった。深い失望感にさいなまれながら、姚力医師は空港まで見送りに行った。出発ロビーでなけなしの800元を奥田准教授の手に押し込みながら、「免税店でお子さんにお土産でも……」と言ったという。彼は、記者にここまで話すと言葉を詰まらせ、こみ上げるものをこらえた。そして、「私たちの準備作業は本当に不出来なもので、当時私は奥田先生は二度と来てくれないものと思ったのでした」と続けた。

しかし、姚力医師はこれであきらめなかった。彼は経験を総括し、そこから教訓を汲み取った。そして、十分な準備作業を行った上で2005年に再び奥田准教授に訪中を依頼したのだった。奥田准教授はこの招きに応じてくれた。「当時、奥田先生は少しのためらいもなく快諾してくださったのです」。そして、中日友好病院の講堂でのシンポジウムには、多数の専門家と300名を上回る医師が出席した。イベントは大きな成功を収めたのだった。

それから現在まで、奥田准教授は毎年一度ならず中国で学術交流を行っている。姚力医師は「奥田先生は日本で非常に忙しい方なのですが、休日や祝日であろうと、私たちの求めに応じて時間を捻出して訪中してくださっているのです」と説明してくれた。

いかに中国での腹腔鏡手術を発展させていくかについて語る奥田準二准教授 スクリーンに映された映像を詳細かつ専門的に解説する姚力医師

「私はCDプレーヤー、彼は増幅アンプ」

ここ数年、彼らは次第に手術実演とその後にシンポジウムという形式から、全国各地で腹腔鏡外科手術の技術研修を行うという形に活動を発展させてきた。そうした中でも、奥田准教授の通訳は必ず姚力医師が行っている。奥田准教授によれば、複雑な手術は大きな問題ではなく、最も重要なのは言語の壁を乗り越えることなのだという。彼は記者に、もし姚力医師の正確な通訳と詳細な解説がなければ、手術自体がどれだけ素晴らしい出来でもこれほどには伝わらないだろうと打ち明けた。毎回手術を行うにあたって、姚力医師は奥田准教授のコメントを硬い直訳調で伝えるのではなく、手術の実際を詳細に解説しながら伝え、医師たちが深く理解できるよう手助けしている。時に奥田教授の二言三言の短いコメントが、姚力医師の通訳を経ると1分にも達することがある。奥田准教授は「もし私がCDプレーヤーなら、彼は増幅アンプですよ。彼は私のエネルギーを何倍にも拡大してくれる優れたパートナーです」と笑う。

姚力医師と奥田准教授は、強力なチームワークで会場に詰めかけた医師たちにたびたび大きな衝撃を与える。5月のメーデーの連休後、彼らは天津人民病院で手術を行った。会場でライブ映像を見守った医師は800人余りに上る。実演の後、ある医師は「奥田先生の完璧な技法と姚力先生の詳細な解説はともに素晴らしく、ふたりなのにまるでひとりのように感じました」と驚きを語ったという。

姚力医師は、最後にこう語ってくれた。「私は幸いにして素晴らしい先生を探し当てることができました。十数年の学習と経験を経て、私が現在最も望んでいることは、これらの経験をより多くの医師たちに伝え、彼らが最短時間で成長できるよう手助けすることです。なぜなら、それがより多くの大腸がん患者の一日も早い快復につながるからです」。

 

人民中国インターネット版 2013年5月28日

 

 

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