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座談会

 

「嫌中憎韓」に加担しない  出版界に自主的な動き

 

 

「売らんかな」が先行

 

司会 出版社が「嫌中憎韓」の書籍を次々に出すのは何故でしょうか。

岩下 やはり売れるからだと思います。単発で大ヒットではなく、ランキングから見ると10位以内に入ったのは『呆韓論』だけ。そのほかにヒットはないのに、さまざまなタイトルを付けた「嫌中憎韓」本の数がものすごく多く、これが主流だと思われています。

近藤 冷静に分析している著作でも、「売らんがため」に反中的なタイトルをつけなければならない状況です。

岩下 この現象は特に新書の場合が多いです。安価で初刷が少なく、長く売り続ける本ではありません。一瞬にして大量に店頭に供給し、広告も一気に出して、平積みにし、売れたらさっと引き下げます。今の出版業界は3年も売れるなどとは期待していません。「反中」のブームに乗って、回転の速い商品として出しています。

司会 売れるというのは、大体何部くらいなのですか。

 新書の場合は初刷大体1万部。本屋に行くと、このような本は平積みにして少なくとも20、30冊があります。版元も、編集者たちも社会の空気を読んで「今の読者はこういうのが好みだから」と「嫌中憎韓」の本を出す。ただ、本当に売れているかどうか、私たちにはわかりません。

岩下 私たちは最初に千部くらいスタートしてだんだん増刷していく。だが「嫌中憎韓」本はいきなり店頭に大量に並べて、それを見た客は「人気の本だ」と思って買ってしまう。「物量によって売る」というスタイルが確立されているのです。

真鍋かおる 大手の出版社の企画会議では、営業部の意見が非常に強い。営業の支持を得られないと編集者は本を作れないという状況にあります。発行部数はその筆者の前の本のデータで決まります。だから、こんな本を作りたいといっても、データがなかったり、売れそうもないと判断されたりすれば手も足も出ない。どこの版元でも大手出版社でも、こういう傾向が強いのです。

 

出版界自ら足元見つめる

 

司会 どうして、売れさえすれば何を書いてもよいという風潮がまん延したのでしょう。

岩下 昔の出版界は志が高く、「良い本を売るのだ」という意識が強かった。私がこの業界に入ってからは、そんな甘えは許されない「売ってこそ良い本」で、編集者が勝手に良いと思っている自己満足ではダメ。「ちゃんと数字を上げて売ってみろ」という意識が強くなった。結果的にいい面もあったが、中身が正当かどうかを度外視し、売れそうなものを作る、読者のニーズに合わせた方が勝ちという風潮が続いた結果、嫌韓本・嫌中本のブームとなっている。

しかし対応してはいけないニーズがあると思う。差別感情もニーズのひとつという考え方はダメなのではないか。

近藤 だいぶ前の出版人には絶対にやってはいけない3S(セックス、スキャンダル、センセーショナリズム)という「禁じ手」があった。しかし出版不況という背景があり、そこに踏み込んでしまった感がある。車に例えると、ブレーキの効かない車、ハンドルが効かない車を売ってはいけない。あなたの本はブレーキが効きますか?ハンドルは効きますか?という問いかけをしたい。

司会 出版界の有志の人たちはこうした現象に対し、昨年3月「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」を立ち上げましたね。

岩下 まだ本当に微々たる力です。会の趣旨文をネット上にアップした後、出版の仕事に携わる人を中心に700人くらいが賛同して署名してくれました。出版の業界内で、現在の状況に疑問を感じている人がこれだけいると実感できました。

司会 出版界で働く人自身からこうした反省の声が上がったのは初めてでしょう。

岩下 出版側が「ヘイトスピーチ」の加害者の側になっているのではないかという問題意識から出発しました。さまざまな思想の人とも仲良く、横につながっています。自分たちの考える「良い本」を売ろうという姿勢が大切だと思います。出版側が自らの足元を省みるという点で、今までとは違った新しい動きに見えるのかもしれません。

真鍋 河出書房は昨年5月、「今この国を考える 嫌でもなく呆でもなく」という「嫌中憎韓」や『呆韓論』を意識したフェアを実施し、自社の本以外にも他社から出されて本も含めて、識者が推薦する書物のフェアをやりました。若い社員が自発的にやって、大きな反響がありました。

 

人民中国インターネット版  2014年12月30日

 

 

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