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【インタビュー】浪曲師・春野恵子さんに聞く

ライブやレクチャーで浪曲の魅力を世界に発信
古典芸能の次世代への継承を目指して

 

文=孫雅甜 写真=郭連友

 

 

浪曲師・春野恵子さん

 

 

ライブやレクチャーで浪曲の魅力を世界に発信

古典芸能の次世代への継承を目指して

4月2日、浪曲師の春野恵子さんによる浪曲のレクチャー&公演会が北京日本学研究センターで行われた。当日、日本文化に興味を持つ参加者約150人が春野さんのレクチャーを聞き、浪曲の魅力を味わった。今回の公演会は、昨年開催されたアモイ大学での公演に続く2回目の中国公演だ。

当日のレクチャーで春野さんは浪曲を詳しく紹介し、その発展の歴史や現在の状況、また発声の仕方や浪曲を聞く際の礼儀などについて語った。そして公演の最後に、『両国夫婦花火』という演目を披露した。

落語や講談とともに日本を代表する大衆芸能のひとつである浪曲は、曲師が演奏する三味線を伴奏に一人で物語を語る演芸で、その始まりは江戸末期から明治初期にかけてといわれており、明治後期から昭和中期にかけて、レコードやラジオの普及に伴って爆発的な人気を呼んだ。浪曲の演目は、庶民的で義理人情に訴える作品のほかに武芸物、出世物、任侠物、悲恋物などさまざまだ。

 

  

 

普及活動を世界で展開中。浪曲ならではの魅力とは?

――情熱あふれる浪曲師・春野恵子さんに聞く

「皆さん、浪曲を知っていますか?聴いたことのある方はいますか?」。公演を始める前に、浪曲師の春野恵子さんは観衆にそう尋ねるという。海外公演の時には必ず浪曲のレクチャーを開き、浪曲の普及を図っている春野さんは、いつも会場の人々と熱心に交流している。今日はそんな情熱あふれる浪曲師の春野恵子(以下春野と略称)さんに浪曲との縁について語っていただき、また浪曲の魅力や現状、将来の発展性などについてお聞きしたいと思う。

―― まず浪曲との出会いについてお聞きしたいのですが。

春野 私は、大人になるまで浪曲があることすら知りませんでした。きっと幼い頃から大人になるまでずっと浪曲に出会う機会に恵まれなかったからだと思います。私の両親はアメリカやヨーロッパの文化や芸術が好きで、日本の文化には興味がありませんでした。母の影響で、私は子供の頃からミュージカルが好きになりましたが、祖父母の家を訪れた時に、相撲や時代劇を見たりしているうちに日本の文化や芸術などに興味を持つようになりました。そうして、タイプがかなり異なる時代劇とミュージカルのどちらもとても好きになり、将来は役者や歌手になりたいと思うようになりました。

大学を卒業してから、テレビ番組やドラマ、コマーシャルなどに出たりしていましたが、タレントとしてテレビに出たいわけではなかったので、進んで行きたい方向が何か違うなーと悩んでいたときに、まず落語に出会いました。それをきっかけに、ライブのものをやりたいと思うようになりました。テレビではなく観客の前に出て、みなさんに楽しんでもらえるような芸を身につけたいと思いました。

それから落語や講談などいろいろなものを聴いているうちに、ついに浪曲にたどり着いた時には、自分が探していたのはこれだと実感しました。浪曲はまさに私の小さいごろからやりたかったミュージカルと時代劇を足して2で割ったようなものだと思いました。私は一生をかけてでも極めていきたいと思えるものに早く出会いたいと願っていたので、浪曲と出会ってその願いがやっとかないました。

―― 春野さんにとって浪曲の魅力は何でしょう?

春野 人を引きつける力ですね。芸術にはいろいろありますが、いずれにしても自分が披露する物語や作品に聴衆や観衆をどれだけ引き込めるか、つまり「引き付ける力」がとても重要です。浪曲が持つ引き付ける力はすごく強いものだと思います。

―― 浪曲は今、危機的な状況にあるそうですが、今後浪曲がどう受け継がれていくのか、また将来の発展性についてどうお考えですか?

春野 浪曲が人気を博していた時代には、人気の浪曲師たちが出演する演芸会も開催されていましたが、現在ではかつて人気だった演目のほとんどが日本人の間でさえ知られていないという危機的な状況を迎えています。そして今、若手が育っていないことは大きな問題となっています。少人数であったとしても入門してきた人たちを応援し、機会を設けてあげたりするなど、先輩としてできる限りのサポートをしたいと思っています。また、より多くの人に浪曲について知ってもらい、普段から浪曲を聞いてもらいたいので、普通に劇場で浪曲を披露するだけではなく、若い人が集まるバーやカフェで気楽に浪曲ライブやレクチャー付きの『浪曲ROCK YOU!』というイベントを開催するなどして、さまざまな形で浪曲の魅力を伝えています。さまざまな活動を展開していく中で、浪曲師になりたいと思う人が現れたらうれしいですね。

―― 昨年、アモイ大学で浪曲公演を行われましたね。それが初めての中国公演でしたね。

春野 中国で浪曲の公演をしたかったので、浪曲の普及をサポートしてくださっている京都文教大学の先生に相談したところ、先生は仕事でよくアモイを訪れておられるそうで、現地の友人や知り合いをあたってくださいました。そして先生の計らいで去年、アモイ大学のキャンパスで公演をやらせていただきました。学生の皆さんが日本文化にとても興味があり、熱心に勉強していることを知ってとてもうれしかったです。またこの機会に私も中国文化に興味を持つことができ、こうして交流が広がっていくことを非常にうれしく思っています。

―― これまでニューヨーク、ベルリン、中国で浪曲の公演を行われましたが、今後海外公演の計画はありますか?

春野 今年9月にミラノ万博に行きたいと考えています。あとはブラジルですね。ブラジルには日系人が多く、高齢の日系人一世の方々は、趣味で浪曲をしている方もおられると聞いています。また浪曲が好きな方々が集まって、みんなで浪曲のレコードを聴くイベントも行われているそうですね。でも二世、三世となると、日本文化へのなじみが薄くなっているようですので、現地のさまざまな世代の方々に浪曲を是非聞いていただきたいと思います。現地の浪曲の発展ぶりも知りたいので、みなさんとの交流を今からとても楽しみにしています。

―― 春野さんは英語で浪曲をしたことがあるそうですね。今後中国語で浪曲をしたり、中国人の弟子を受け入れたりする予定はありますか?

春野 中国語が難しくて(笑う)。でも、もし中国人から弟子入りの申し出があったらうれしいですね!私が海外公演を展開したいと思うのは、自分の演目を観客に楽しんでいただくこと以上に、浪曲という語り芸を広く伝えたいからです。そのようにして浪曲が海外でも盛んになって、例えば中国人が中国語で、中国の楽器を使って、中国の古くから伝わる物語を浪曲のスタイルで披露するようになると非常におもしろいのではと思います。こうしたことにチャレンジする人が現れるならすごくうれしいですし、実現できるように喜んでサポートしたいと思っています。

 

春野恵子さんプロフィール

東京都出身。東京大学教育学部卒業後、本名の唐木恵子の名でドラマ、CM、司会、バラエティ番組などに出演する。2003年、上方浪曲界の重鎮で大阪市指定無形文化財保持者・二代目春野百合子に入門。2006年に春野恵子の芸名で浪曲師として初舞台を踏む。浪曲の魅力を広く伝えるため、浪曲レクチャー付きの「春野恵子のRoukyoku Rock You!」を各地で公演する。2012年には、大阪文化の振興を目指すと同時に未来の大阪文化を担う人材に贈られる「咲くやこの花賞」を受賞した。また、2014年3月には、ニューヨーク公演を成功させた。

 

人民中国インターネット版 2015年4月8日

 

 

 

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