現在位置: 中日交流
山田啓二京都府知事に聞く 「修学旅行」で伝えたい両国交流の足跡

 

聞き手=王朝陽 写真=呉文欽

京都を訪れる中国人観光客が近年、大幅に増加している。2015年9月の京都市の公式統計では、3人に2人の中国人が京都を目指すという結果が出ている。

京都には千年の日本文化がいまも息づき、世界遺産に登録された神社仏閣も多いが、モダンな文化が古き良き文化と見事に共存しており、そこに京都の新しい魅力を見出す観光客も少なくない。

「一期一会」の揮毫を手にする山田啓二知事。「今年も新たな出会いはもちろん、そこで生まれた関係の一つひとつを大切にしていきたい」

「古来より中国と京都府の縁は非常に深く、その足跡を未来に受け継いでいきたい」と語る山田知事

また、京都は元来世界の国々との文化交流が盛んだが、近年は青少年交流など、新たな領域での交流が進められている。歴史の遺産を生かし、どのように現代社会に文化の花を咲かせるか。京都府知事であり、また全国知事会会長を務める山田啓二京都府知事に、その思いを聞いた。

――一千年以上の歴史とそこで育まれた文化が、京都の魅力と思われがちですが、同時に驚くほどモダンな文化も育っているようです。両者を共存させる秘訣は何でしょうか?

山田啓二知事 私は古き良きものが新しいものと調和した世界を、京都の文化として確立していきたいと思っています。京都はとかく古都として見られがちですが、実は進取の気性を持った場所なのです。例えば琵琶湖疏水のためにつくられたレンガ造りの運河は明治時代のもので、古都・京都としては決して古いとは言えないのですが、今では立派に京都の「歴史」の一部分となっています。京都タワーやJR京都駅などの近代建築も、一時は景観にそぐわないとの批判も出ましたが、いまや京都の景観に溶け込んでいます。このように歴史的建造物を単に形のまま残す「遺跡」ではなく、歴史がもたらしてくれた「遺産」として見、どのように現代社会で活用し、どのように付加価値をつけていくのかに常にチャレンジするのが、京都の役割だと思っています。

また、今年は「京都国際現代芸術祭」と「琳派400年記念祭」の2つの大きな芸術イベントが行われましたが、前者は現代芸術の、後者は桃山後期から始まる日本美術によるアートイベントです。このように、新しいものと古いものを融和させることによって今の文化を創り出す作業は、京都独自の文化を保存するやり方であり、意義あることだとも思います。

2013年11月、陝西省西安市で「京都フェアin西安(京都物産展)」が開催された際には、山田知事自らブースに立ち、来場者に京都の様々な物産を紹介した(写真提供=京都府)

――京都の「古くて、しかも新しい文化」に魅かれて日本を訪れる中国人が増えています。今後力を入れて取り組みたい観光分野をお教えください。

 山田 今一番やりたいのは教育旅行ですね。2011年の日本から中国へ行く修学旅行は84校で9312人、中国から日本に来る修学旅行は140校で3439人でした。ところが、2013年には日本からは18校で1626人、中国からは64校で1147人と激減しています。次代を背負う青少年の交流の機会が減っているのは、非常に残念な問題と受け止めています。

京都の街は元々、唐の都をモデルにしてつくられており、嵐山には周恩来元総理の歌碑があります。また、古くは京都北部の福知山では、魏代の陶器が多数出土されるなど、日中友好の歴史の{あかし}証をたくさん持っています。このような歴史の軌跡を両国の学生たちに確認してもらう一方で、京都府と友好提携を結ぶ陝西省にある兵馬俑など中国の史跡も、日本の子どもたちにもっと見てもらいたい。教育旅行の促進については、今後も政府に積極的に訴え、若者が気軽に行き来できるような、より良い雰囲気づくりを行っていきたいと思っています。

――教育旅行で京都を訪れる若者に、一番体験してもらいたい文化は何でしょうか。

 山田 京都府はとても広いので、市内だけではなく京都全体を見ることで、京都の文化の成り立ちやその背景に視線を向けていただけたら、意外な日中文化の交差点が見えてくることもあると思われます。

日中両国の茶文化を例に挙げましょう。京都府の南に位置する宇治の抹茶は世界的にも有名ですが、お茶は元々、中国から伝来したものです。しかし日本に伝わった抹茶は、今の中国ではすたれています。中国の茶葉と日本の茶葉は同じものですが、製法が違います。このように、中国伝来の茶葉が日本の地理的環境や民族の性格によって変化し、新しい文化を創りあげているという事実も、日本への理解を深めてくれるでしょう。

2013年の陝西省訪問では、友好提携30周年を記念して中日友好団体と共に植林を行った(写真提供=京都府)

京都は再来年、お茶をテーマにした日中間交流を企画しています。日本茶と中国の様々な銘茶を交流のツールとし、双方の良さを味わうと同時に、お茶を通じた新たな地方交流をも目指すのが目的です。

――京都府は1983年から中国・陝西省と友好提携を結んでいますが、交流の成果をお聞かせください。

 山田 過去の成功例の代表格は、環境保護のために陝西省で毎年行われている、両国の高校生による植林でしょうか。三年前の提携30周年には私も陝西省へ行き、高校生と共に参加してまいりました。そこで過去植樹したものが立派な木に育ち、それが林になりさらに森へと変化していくさまを目の当たりにし、この活動を絶対に閉ざしてはいけないと痛感しました。

地方交流はまさに植林と同じで、一朝一夕に築けるものではありません。中国と日本の間には何千年という歴史があるなか、両国は現在非常に緊迫した時期に向き合っています。この長い歴史を振り返ることでお互いの交流の歴史をより多く見出し、次の世代に受け継いでいくことは、私たちの大きな責務です。現状ではすぐに解決できないかもしれませんが、小さな努力の積み重ねが大切です。

振り返ってみれば、地方交流の始まりは官公庁による友好交流というスタイルが主流でした。中国が発展するに従い、そこに中国への進出企業が加わります。さらに進んで観光に注目が集まると、最初は日本から中国への渡航者が、そして今は多くの中国からの観光者を日本に来るようになりました。今では新たな地方交流のスタイルとして、生活に深く関係する環境問題のような、日本がかつて体験し、中国がまさに相対している問題に対する協力関係が注目されています。

――今後の地方交流に関して、どのようなビジョンをお持ちですか。

山田 中国の地方都市と進行中のプロジェクトは、大連市との港湾を通じた経済交流などの推進、西安市と京都市による大気汚染などの環境問題と文化財保護などが挙げられます。

趙正永・陝西省委書記と両府省の友好交流について協議を行った。2013年、陝西省西安市にて(写真提供=京都府)

将来的に協力関係が期待できるのは、両国共通の課題である少子化や高齢化などの福祉問題です。日本の高齢化社会に伴う介護施設対策は、今後の中国にとっても参考になるでしょうし、介護現場の人手不足に悩まされている日本に中国から研修生を招き、人手不足を解消すると同時に人材育成を行い、研修生は帰国後、日本から持ち帰ったノウハウを中国の介護現場に活かすなど、人材の循環システムを構築することで、ウィンウィンの関係が確立できるかと思っています。つまり、単なる労働人口の行き来ではなく、将来につながる循環システムの構築を目標にしていくということです。

―最後に全国知事会会長として、読者へのメッセージをお願いします。

 山田 中国との地方交流をより盛んにしていくことが今年の目標です。行き来が盛んになるほど、新しいアジア、新しい世界を創造することができ、その原点はやはり地方交流に尽きると思っています。今年の干支は申(猿)。中国では「賢くスマート」というイメージだそうですね。日中両国も猿にならってぜひ「賢くスマート」な関係を作っていきましょう。

 

人民中国インターネット版 

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850