宋の時代とどこか似ている

 

江原規由 1950年生まれ。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。
 「歴史は繰り返さない」といいますが、今の中国経済や社会情勢は、宋の時代(9601279)との類似性が目立ちます。宋の時代は経済活動が盛んで、「ものつくり」や「商い」で余裕のできた階層が生まれ、庶民は生活を謳歌する機会に恵まれていたようです。

 

 運河によって地方の物産が首都の開封に運ばれ、飲食店が夜通し賑わい、市や芝居が時間や場所を制限されることなく一日中、盛んでした。唐の時代(618907年)は、都の長安で市が東西の両市に限られ、夜間の通行も禁止されていました。宋は唐に比べると、遥かに活気に満ちていたといえます。

 

 現在に目を転じると、中国は経済重視の改革・開放路線をほぼ30年、続けています。現政権は「以人為本」(人間本位)、「小康社会」(いくらかゆとりのある社会)の政策を打ち出し、農業、教育、社会保障の充実や格差是正に力を入れています。

 

 また中産階級が経済活動で重要な役割を演じつつあります。経済が安定していれば、内外情勢の変化にも対応でき、庶民生活に余裕が生まれるわけです。経済安定のバロメーターは、消費と蓄財のバランスにあるといえるでしょう。

 

国は輸入拡大へ 

 

 中国は、内需主導の成長パターンに転換しようとしており、その主役は消費です。

 

 国家の消費といえるのが輸入です。中国は、輸入に比べ輸出が圧倒的に多く、昨年、外貨準備高で世界第一位になりました。黒字が増えすぎると各国との貿易摩擦や人民元の切り上げ圧力などが増えます。中国は輸出を調整し、輸入を拡大するなどして、拡大均衡を図りたい意向です(注1)。

 

 例えばこの5月には、120億ドル程度(外貨準備高のほぼ百分の一)の米国商品(大豆、綿花、機械・電子製品など)を買付けるミッションが米国に派遣されました(注2)。中国にとって米国は最大の貿易黒字相手国(2006年は1443億ドル、米国の統計では2325億ドル)であり、中国が対米経済関係の円滑化に配慮したのです。

 

 経済大国であった宋の時代も、当初、財政は豊かでした。戦争を好まなかった宋は、北方の遼や西方の西夏に莫大な歳幣(絹、銀、茶など)を提供し、平和維持に努めました。時代的背景は異なるものの、経済的手段で対外関係の安定に配慮しているところは、今と似ています。

 

 黒字調整としては、「加工貿易」(注3)の見直しや輸出関連税制の調整、先進技術製品の輸入拡大などがあります。また、中国製品の輸出専門であった広州の中国輸出商品交易会は今年の第百一回から輸出入商品交易会として、輸入促進の場としても対外開放されました。QDII(有資格国内機関投資家)の導入や海外投資の拡大も、黒字額の調整に一役買うことになるでしょう。

 

 日本とはどうでしょうか。日中では貿易統計のとり方が異なっていることから、統計上、双方が貿易赤字を記録していますが、赤字額は多額ではありません。エネルギーや環境問題が深刻化しつつある中国は、今後、省エネや環境保護関連技術・機器で世界の最高水準にある日本から、こうした製品の輸入を増やすことになるでしょう。最近、日本製のコメの対中輸出も解禁されたのも、中国の輸入拡大に一石を投ずると期待したいものです。

 

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