世界が見つめる中米の経済関係

 

江原規由 1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市名誉市民を授与される。ジェトロ海外調査部中国・北アジアチームリーダー。2001年11月から、ジェトロ北京センター所長。

 5月末、大連の大学二校を訪問する機会がありました。そこで、大手米国企業が、大学と提携し、教育関連資材や奨学金などを提供し、人材育成プロジェクトを大胆に試みている現場を視察しました。こうして育った卒業生のうち優秀な人材が、その米国企業に就職しているとのことでした。米国企業は、中国の人材育成を通じ、中国でのビジネス戦線で攻勢をかけているのだと、その長期的経営戦略に感心したものです。

 

 中国米国商会(商工会議所)が昨年5月に発表した2006年版白書によると、在中米国企業の89%がビジネス活動を増加させたと回答しています。米国企業の中国ビジネスに対する意欲が高いことがわかります。

 

課題も増える

 

 中米経済関係は順調に拡大してきましたが、同時に課題も増えてきています。最近、この課題が大きくクローズアップされています。

 

 例えば、貿易量は急拡大しましたが、米国の対中貿易赤字も拡大し、2006年には1443億ドルに達し、中国貿易黒字全体の81.3%を占めるまでになりました。このため米国議会や産業界から、人民元の大幅切上げや対中強硬措置を求める声が高まってきています。

 

 実際、今年4月、米国は、知的財産権関連で中国をWTOに提訴(注1)しました。対中進出した米国企業が中国でのビジネスで収益を上げている一方、米国内企業は中国の輸出で被害を蒙っていると主張しているのです。

 

 中米貿易摩擦は、中米両国と緊密な経済関係にある日本にも影響が出ないとも限りません。最近の中米経済関係は両国間にとどまらず、世界経済にとってますますホットな話題となってきています。

 

切っても切れない関係

 

 1979年、中米両国は国交を正常化しますが、中国側の統計によれば、2006年の両国の貿易額は、当時の実に106倍(年率平均18.9%増)に拡大しています。両国はともに、第2の貿易相手先となっており、切っても切れない関係にあるといってよいでしょう。

 

 また、直接投資でも、米国の対中投資額(実行ベース)2006年末の累計で540億ドル(注2)となり、対中進出した米国企業は、日本の2倍の5万余社とされています。

 

 こうした緊密な経済関係にある中米両国間にどんな課題があるのでしょうか。今年5月末、ワシントンで、中米間の通商問題などを包括的に協議する第2回中米戦略経済協議(SED)が開かれましたが、ここで議論されたことや思惑などから、両国間に横たわる課題を見てみましょう。

 

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