中国のヘッドコーチになった理由

 

一方、最近、日本でも中国でも、私を見る目に変化が起きていることを、私自身も感じている。今の日本社会は、「すばらしいことだ」「日本も頑張るから、中国も頑張れ」という風に大きく変ってきている。一方、中国のマスコミも、当初は「日本人監督が、果たして自分の技術を明かしてくれるだろうか」と、やや不信をもって見ていた節もあったが、今は、だれもかれも励ましと期待の眼差しで見てくれる。最近、「五輪が終わった後も、残ってほしい」と温かい声をかけてくれる人も出始めた。 昔の自分を見るようだ  技術力とパワーが日本のシンクロの武器だとすれば、中国は選手の素晴らしい体形が特徴だ。166センチのフライヤー一人を除けば、全員170センチで、「よくもこれだけ手足の長い選手がそろったものだ」と、ひたすら感心する。しかし、美しいだけでは試合に勝てない。今は、美しく、逞しく演じられることを目指して、指導している。

 

ところで、中国人選手と日本人選手の指導で、違いを感じることがある。日本では、最近、忍耐力に欠け、難しいことをやると、逃げから始める若い選手がいるが、中国人選手は絶対、嫌な顔をしない。彼女らには「できない」という文字がない。若かりしころの自分を思い出す。

 

ただ、中国選手を指導していて困ることは、やりにくいとか、どこかがぶつかって痛いとか、そういうことを逆に我慢しすぎて言わないこと。もう習慣になっているのだろうか。「とにかく、我慢しないで、今の状況をどんどんぶつけてほしい」と、率直な表現にトライしている。 アジアの一番が世界の一番  「五輪の時、中国と日本のどちらを応援するか」。周りからよくこんなことを聞かれる。

 

正直に言うと、今の私は、そういうことは意識にない。今は、時間の許す限り、中国選手を向上させたいのみである。教えることは学ぶことでもあり、中国で教えながら、私も多くのことを学んでいる。

 

そして、私には何よりも目指す目標がある。アジアの一番が世界の一番になってほしいこと。できれば、一番と二番の争いは、中国と日本の間で展開してほしい。

 

とにかく、自分の持てる力をすべて出しきって戦いたい。そして、戦った後の感動を味わいたい。北京オリンピックに出場する選手もコーチも、全力を出しきって戦えば、試合が終わった時に、必ず中国と日本の距離が近くなっていると信じている。そして、その試合を見た中国人と日本人の距離、さらに、国同士の距離も近くなっているはず。

 

国と国の間には、戦争など悲しい歴史はあるが、スポーツにおいては、それらを置いておくことができる。違う習慣で育った国民たちが、本気で勝負して、強い人が勝って、弱い人が負ける。自分よりも強い人に対しては敬意を表し、称える。その中では、多くのことを学びこそすれ、憎しみは一切残らない。逆に、負ける中でも学ぶことがある。

 

五輪では、日本も中国も全力を出しきって戦えばいい。その時はもう理屈なしに、きっと何かすごいメッセージが残ると思う。そして「日本と中国は素晴らしい交流をしたね」と、両国の人々に言われてみたいものだ。

 

人民中国インターネット版

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