身だしなみ

華東理工大学 外国語学院 劉旭

街や電車の中で日本人を見かけることがよくある。日本人を見かけるといっても、その人が日本人かどうか直接確かめるわけではないが、私には、その人が「日本人だ」と何となくわかるのである。服装から、おそらく日本人だろうと判断するのである。私が日本人に抱くイメージの中で大きなウエイトを占めているのは、彼らのファッションへのこだわりである。日本人の場合、大抵の人は装いに気を使っているように感じる。中国の若者の間で、日本はファッション大国として知られている。それは、日本のファッシ雑誌の種類の多さから見てもわかる。例えば、十代向けには『リアル』、二十代向けには『スマート』、三十代以上向けには『サファリ』、『センス』などがある。

 似たようなファッション雑誌は中国にもある。そういう雑誌には写真が多くカラフルなので、写真を眺めているだけでも楽しい。ファッションは、流行に敏感なのが一般的だ。そんな中、日本のファッション雑誌で、特に私の目を引いたのは、日本の大学生が就職の面接の時に着る「リクルートファッション」である。「面接はスーツにネクタイ!」という感じで、いろいろなスタイルや柄のスーツ、ネクタイ、カバンや靴などがたくさん載っていた。日本では、就職活動をする大学生が、スーツを着るのは一般的なようだ。どんなに暑い時でも、就職活動中の学生はスーツを着て、汗だくだくになりながら会社を訪問しているようである。

楽しむファッションならいいが、夏の暑い盛りに、なぜ、これほどまでに服装にこだわるのであろうか。その理由は、学生が真夏に好んでスーツを着ているのではなく、仕事を得るために、面接官に与える印象を良くしたいと思えばこそ、服装にこだわっているのであろう。だが、夏の暑い日に、スーツを着てネクタイを締めて革靴を履いて会社を訪問しなければならないほど、服装は重要なことだろうか。初めての人に対しては、第一印象が大事だといっても、何もそこまで我慢しなければならないことだろうか。だが、そこには、日本ならではの理由があるのだろう。というのは、服装は第一印象を決める重要な要素ではあるが、暑い日に何が何でもスーツを着るのは、自分をよく見せたいという理由だけでは説明できないような気がするからだ。

日本語には身だしなみという言葉がある。日本人は改まった場所では、身だしなみに気を使うと聞いたことがある。身だしなみという言葉を広辞苑で引いてみると、「身の回りについての心がけ。頭髪や衣服を整え、言葉や態度をきちんとすること」と出ている。「身の回りの心がけ」が意味することは、服装だけの問題ではないということがわかる。言葉や態度まで含まれるということだ。言葉や態度というのは、相手に対する言葉や態度を意味する。それは相手も尊重した気持から生まれるものであろう。つまり、リクルートスーツを着て会社を訪問するのは、身だしなみに気を付けている姿だといえる。夏、暑い日にスーツを着て会社訪問をするのは、自分の印象をよくして自分を売り込むためだけではなく、相手に対する尊敬の気持ちを表していることになるのだ。私が、日本人に抱いた第一印象のファッションへの関心というのは、この「身だしなみ」を感じていたのかもしれない。

ファッションは楽しむためのものでもある。奇抜なデザインの服を着て気分良くなる人もいれば、極彩色の服を着て元気の出る人もいる。人にはそれぞれ好みがある。その人の好のみのファッションを楽しめばいいと思う。しかし、そういう場合でも、日本語の「身だしなみ」という考え方は重要だと思う。「身だしなみ」は、外見としての服装だけではなく、言葉や態度などマナーまでを含んでいるからである。人は外見だけではなく、心のあり様が大事である。

最近、中国もだんだんファッションに関心を持つ人が増えてきた。以前は、ほとんど外見を気にしなく、心の美しさだけが強調されていたが、近頃は服装も気にするようになってきた。こういう傾向はますます盛んになっていくだろうと思われるが、その場合でも、中国文化の中で大事にされてきた心の美しさが一番大事だという考え方は失いたくないものである。幸い、今の中国は化粧をしないで素顔のまま出勤する人は多い。仕事で大事なことは化粧ではなく、一生懸命働くかどうかである。外見だけで人を判断してはならない。将来、中国で、服装やお化粧など外見への関心が高まったとしても、「身だしなみ」という言葉を思い出せば、自分を見失うことはないと思っている。私は、日本を日本人のファッションで感知していたが、それは、決していやなものではなかった。いくら外見への関心が高まって行ったとしても、「身だしなみ」をよくするという考え方を忘れさえしなければ、人間として心の美しさを見失うことはないと確信するからである。

創作のインスピレーション

上海に来てから街や電車の中で日本人を見かけることがよくある。中国人より彼らのほうが装いに気を使っているような気がする。服装というものは、外見の一方面として、人との付き合いの中でもっとも単純な、しかもしばしば忘れられがちな手段だと思う。身に着けている衣装で自ら表現をできる。自分の好みはもとより、自分の気持ちや性格などのような心柄までも一瞥するだけでわかるようになる。だから、身だしなみはとても重要だと思う。今回の2008笹川杯征文大赛をきっかけにこの考えを書き表したので、ありがとうございました。

 

人民中国インターネット版 2008年12月4日

 

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