李米の推測(李米的猜想)

監督 曹保平 2008年 中国 96分

 

あらすじ

昆明の女性タクシードライバー李米は助手席の後部ポケットに入れた雑誌に恋人の方文の写真をはさみ、乗客を乗せるたびに見覚えがないかを尋ねる。4年前、方文は李米の両親に結婚を反対されて失踪、手紙だけを送りつけてくるのだった。ある日、李米はいかにも農村からやってきたと分かる男の2人連れを乗せるが、若い方の朴訥な青年水天が、昆明に出てきたのは恋人が母親に炭鉱夫と寝て金を稼ぐように迫られて家出をしたのを捜しに来たのだと言う。李米は水天の境遇に親近感を覚えるが、もう一人の年かさのほうの男・火貴は郊外にさしかかった途端に包丁を取り出し、李米に広州までの飛行機のチケット代2000元を出せと脅す。

とっさの機転を働かせ、ガソリンスタンドで警察に通報するのを頼むことに成功し、さらに水天のおかげで辛くも逃げ出すことのできた李米のもとに、警察からの呼び出しの電話がかかる。警察の遺体安置所には火貴が横たわっており、死因は80粒ものカプセル入り麻薬を飲んでいたのに、さらに鎮痛剤か何かを飲んだためだという。タクシーに乗せた時、腹痛を訴えていた火貴に鎮痛剤を買い与えたのは李米だった。2人の男は1万元の報酬で麻薬の運び屋を引き受け、昆明で広州から来るという男と落ち合う予定だったのだが、落ち合うはずの場所で自殺事故に巻き込まれ、相手と会えなくなっていた。そして、同じ事故に巻き込まれた被害者の男女2人連れと偶然顔を合わせた李米は、男のほうが行方を捜し続けている方文だったことに愕然とする。しかも、方文は馬冰と名乗り、李米のことなど知らないと言い張るのだった。

解説

初めは関係がないかのように見えたタクシー強盗事件と麻薬事件のつながりがほどけていき、さらには李米の恋人の真実が明かされていく脚本が見事である。サスペンス物の比較的少ない中国映画の中では際立って優れたサスペンス映画になりえている。しかも、その背景には農村の貧困の問題や、親が子どもの結婚に干渉するといった社会問題、さらには麻薬や強奪といった暗黒部分までを描き出し、中国社会の今をえぐる鋭い視線がある。最後に明かされる方文の李米に対する純愛も切なく、久しぶりに感動的な中国の恋愛映画を見た思いだ。

監督兼脚本は曹保平。1988年に北京電影学院に入学したいわゆる第6世代だが、卒業後は母校に残り、文学部で教鞭を執りながら、ずっと脚本を書いていたという。同じ第6世代監督たちが卒業と同時にアングラ映画を撮り、海外の映画祭で華々しくデビューし、海外の評論家から分不相応と思われるほどの高い評価を受け、海外資本で撮れば撮るほど、ちっとも中国社会の実態を反映しない、外国人の受けだけを狙ったような空虚な作品に陥っているのとは対照的に、地に足のついた見事な作品を撮りあげたことに拍手したい。この作品の前には主旋律映画などを撮りつつ、ようやく自分の撮りたい物を撮ることができたようだ。ロー・バジェットの文芸映画ながら、興行的にも国内で成功したのは、深刻なテーマをサスペンスタッチで見せることに成功したからだろう。

昨年の中国の公開作品では顧長衛の『立春』と並ぶ優れた中国映画である。こうした素晴らしい作品が日本のどの映画祭でも紹介されなかったというのは一体どういうわけなのだろうか。

見どころ

周迅の演技に舌を巻く。周迅がいなければ成り立たなかった映画かもしれない。ノーメイクにそばかすまで描いて、タクシードライバーになりきり、強盗に襲われる恐怖、恋人の裏切りを知った怒りと悲しみ、一転して恋人の本心を知った喜び、その一つ一つの表情が実に素晴らしい。彼女の演技で観客をずんずんストーリーに引き込んでいく。周迅は、作品的にはイマイチだが、同じく昨年公開のホラーアクション映画『画皮』でも、狐が人間に化けた妖怪を演じて、それはそれは見事だった。人間の姿をしていても、その表情が妖怪そのものという何かが乗り移ったような凄まじい演技だった。ほとんど天才といっていい女優さんだ。

脇を固める男優陣も地味ながら、それぞれが適材適所で周迅を支えている。最近は田舎の青年を演じたらピカイチの王宝強、人は良いのに切羽詰って悪事に手を染めざるを得ない男の苦衷を演じきった王硯輝、妻との不和に鬱屈する刑事役の張涵宇、抑えた演技が光った恋人役の鄧超。脚本と役者と監督が良ければ、低資本でもいい映画は撮れるという見本のような作品だ。

 

 

 

人民中国インターネット版 2009年4月28日

 

 

 

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