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黄金とルビーとそして信仰

 

アウン・トゥさんの奉納

アウン・トゥさん(前列一番左)と撮影クルーのメンバー 毎日のように朝早くからヤンゴンの黄金塔を囲んでお祈りする人々

ミャンマーのマンダレー管区モゴック町は、世界で唯一のピジョンブラッド・ルビーの産地である。

伝説によると、ルビーは神が万物を創造する時に創った12種の宝石のなかでも、一番貴重な宝石であったという。ルビーはその美しさ、神聖さ、そして生命力において、一番優れているものと考えられている。その真っ赤な色が血の色を表し、命の起源とされるため、人々はルビーを魔除け及び災難除けとなる縁起のよいものと信じている。

ルビーの価値を決めるのは色と純度である。最上級のルビーは、色合いがどこまでもに混じりけがなく、色彩が濃厚であでやかで、まるで色鮮やかな鳩の血のしずくのようであるため、ピジョンブラッド・ルビーと呼ばれ、この上なく貴重な宝石とされている。1955年、ジュネーブで開催されたサザビーズのオークションで、27.35カラットのピジョンブラッド・ルビーが400万ドルで落札された。

神秘なルビーが豊富に産出されるモゴックの地そのものも、神秘的な雰囲気に包まれている。この鉱区はこれまで外国メディアに取材が許されたことはないという。我々は幸運にもミャンマー政府から許可された初の外国の撮影クルーとして、この伝説の町に入った。

宝石を掘る作業は、夕方から始まる。鉱山労働者たちが鉱坑に降りる前に、リーダーは一人一人の名前を呼ぶ。静かな町に、リーダーの声だけが異様にはっきりと響き渡る。

鉱坑の入り口でまず目に入ったのが、アウン・トゥさんの姿であった。誠実で実直な20年の経験を持つ彼は、肉眼で砕石に隠れたルビーを見つけだすことができる。そのため、鉱主から非常に重宝がられている。穴を掘る位置を選び、鉱山労働者たちの作業を指導するのも彼の仕事である。

宝石の加工に忙しいタイの職人たち。タイでは宝石加工業が非常に進んでいる

宝石を採掘する作業といえば、まず地質の専門家に宝石の鉱脈を見定めてもらい、鉱坑を掘って採掘を始める。一般に地下300メートルは掘らないとルビーは出て来ない。採掘がはじまると、まずアウン・トゥさんのような経験豊富な技術者が穴を掘る作業を指導し、穴に雷管を仕掛けて爆破する。それからアウン・トゥさんが簡単な選別を行い、ルビーを含む原石が見つかれば、2つの錠つきの鉄鋼製の宝石缶に入れ、直接鉱主に手渡す。その後、爆発で砕けた岩石を地上に運び、再び精選する。

この一連の作業が徒労に終わることもたびたびある。鉱石を見つけ出すには、科学にだけ頼っていても不十分である。宝石の鉱床は非常に神秘的なもので、多くは経験と運によって発見される。鉱山労働者たちは、手で鉱石の一つ一つを叩き、選び、心をときめかせるピジョンブラッドの赤を探す。

この取材はちょうど、アウン・トゥさんと仲間たちの1年間の仕事が、終わりに近づいたころだった。2、3日後には雨期が始まり、鉱坑が水につかってしまうからだ。モゴックのルビー採掘作業は、毎年せいぜい7、8ヵ月間のみである。

アウン・トゥさんは妻、息子、娘とモゴックにある木造の家屋に住んでいる。彼も口数が少ないが、妻も静かな人である。彼の家もモゴックの町と同様、落ち着いて静かである。モゴックは山々に囲まれた盆地に位置し、住民のほとんどが宝石の採掘、加工、販売に携わっている。1217年からある古い町で、周囲の山々には金色の寺院と白い仏塔がそびえ立っている。

38歳のアウン・トゥさんはもともとヤンゴンの人であり、両親は今でもヤンゴンに住んでいる。この日の昼食のとき、彼は妻に告げた。

「ヤンゴンに戻って、シュエダゴン・パゴダに参拝したい。ついでにお父さんとお母さんの顔も見てこようと思う」

「社長にお休みをいただかなくてはね」妻もすぐに賛成し、ささやくように言った。

3年ぶりの帰省だという。娘をおじいさんとおばあさんに会わせるほか、仏様を拝み、仏様にお願いをすることが、アウン・トゥさんにとって何よりも重要な目的である。

シュエダゴン・パゴダの頂上にある献納によって集まったダイヤモンドと各種の宝石。先端部にあるのは76カラットのダイヤモンド

アウン・トゥさんは社長から8ヵ月間の給料を受け取り、15日間の休暇をもらった。給料のうち4分の1を家計のために妻に残し、4分の1を旅費と両親のために使うことに決めると、残りのすべての金でモゴックのルビーを買い、旅に出た。

ミャンマーの交通はまだそれほど整備されているとはいえない。モゴックからヤンゴンまで1200キロの距離を、アウン・トゥさん親子はまずバスで2日間走り、それから船に乗り換えエーヤワラデイ(イラワジ)川を渡ってマンダレーに入り、さらに汽車に22時間揺られ、ようやくヤンゴンに到着した。ヤンゴンには、世に名高いシュエダゴン・パゴダがそびえ立つ。紀元前585年に建造がはじまったこの塔の歴史は、ヤンゴンの歴史より2000年も長い。7トンを超す黄金に彩られた高さ100メートルを超えるこの塔は、大小数十基もの黄金塔に囲まれている。世界一貴重な、世界一きらびやかな塔である。

朝、数えきれないほどのミャンマーの人々、世界各地から訪れた仏教徒が、シュエダゴン・パゴダに集まってお祈りをする。敬虔なアウン・トゥさんとその両親の姿もそのなかにあった。お祈りの後、アウン・トゥさんは汗まみれになって働いて手に入れた5つのルビーを奉納した。

生涯の貯蓄と引き換えにした宝石や黄金をこの偉大なる建築に奉納することが、多くのミャンマーの仏教徒の夢である。2000年あまりにわたって、無数のダイヤモンド、黄金、翡翠、指輪、イヤリング、ブレスレットなどがシュエダゴン・パゴダの先端にはめ込まれてきたが、すべて信者から献納されたものである。最新の統計では、塔の先端部に4350個のダイヤモンド、664個のルビー、551個の翡翠、そして1600個大小それぞれの玉が装飾されている。

先端部の頂上にあるのは76カラットのダイヤモンドである。塔にはさらに1200個の金の鈴と、14200個の銀の鈴が掛けられている。塔の外周には定期的に高い足場が組まれ、信徒たちはその足場にのぼって塔に奉納する。誰もが遅れまいと先を争う熱狂的な場面が繰りひろげられる。多くの人が生涯かけて苦労して稼いだ高価な宝石だが、奉納するのは一瞬である。汗水たらして働いて手に入れた宝石、玉、黄金を携えてここにやってきた人々は、すべてを奉納し、喜びいっぱいに手ぶらでここを去ってゆく。

財産の価値は計り知ることができる。しかし、信仰の価値は計れるものなのだろうか。

アウン・トゥさんとその両親がシュエダゴン・パゴダに奉納するのは、これが初めてというわけではない。またこれが最後というわけでもなく、今後もずっと続く。(文・写真=李暁山)

 

 

人民中国インターネット版 2009年4月

 

 

 

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