『南京! 南京!』

監督 陸川

2009年 中国 129分

1937年、日本軍に包囲された首都南京を防衛する国民党軍は、死闘空しく、最後まで闘った兵士500名余りが生け捕りにされる。その中には日本の死傷兵から銃弾を奪って将校の陸に手渡していた少年兵の小豆子もいた。兵士たちは口々に「中国万歳!」「中国は亡びないぞ!」と叫びながら殺されていく。

南京陥落後、街では日本兵による一般の民への殺戮と乱暴が横行、国際赤十字が設けた安全区は日本軍から中国人を守るにはあまりにも非力であった。国際安全委員会を率いるドイツ人ラーベの秘書を務める唐は妻と義妹と娘を守るため、国民党の負傷兵が安全区に隠れていることを日本軍に密告するが、負傷兵を殺しに来た日本兵に娘を窓から投げ捨てられて殺されてしまう。

日本人の従軍慰安婦に性病が蔓延すると、兵士の士気喪失と軍紀の乱れを怖れた日本軍は、安全区の女性たちから慰安婦を募り、その代償に同胞の命は助けるという。「私が行きます」と真っ先に手を挙げたのは遊郭で働いていた小江だった。幼い姪を殺された唐の義妹も手を挙げた。だが、やがて非戦闘員である男たちも、その中に兵士が混じっていることを疑った日本軍によって引き立てられ始める。国際安全委員会の交渉で、家族の男1人だけは連れ戻してよいことになり、金陵女子学院の教師の姜は何度も衣装を換えて夫と称して男たちを救ううち、見つかって慰安婦にされそうになる。姜は連行される途中、顔見知りの日本兵の角川に「shoot me」と訴え、気がつくと角川は背後から姜を撃ち殺していた。

ラーベに帰国命令が出て、助手とその家族を1人だけ連れて行ってよいことになる。一旦は妻と出国しようとした唐は贖罪に目覚め、もう1人の助手にその権利を譲り、自分は殺されることを選ぶ。一方、角川は奇跡的に生き延びた小豆子と姜が命に換えて救った趙を南京城郊外へと連れ出して逃がした後、自ら命を絶つ。

角川正雄という日本兵の目から見た南京大虐殺を描くことで、単に日本が犯した罪悪を弾劾するのではなく、戦争という極限状況での人間性の追求という監督の立場が表明される。偏狭な民族意識を超えている点では『鬼が来た!』と並んで稀有な中国映画であると思う。だが、そのテーマに縛られすぎてドラマ部分が平凡で、ご都合主義も目立ち、映画作品としては残念ながら『鬼が来た!』には遠く及ばない出来であると言わざるを得ない。例えば、姜教師を撃つことで助けてやるシーンは、あんなことをすれば旧陸軍では軍法会議ものであり、自殺するまでもなく角川も捕まっていただろうし、ラーベと去ることを諦めた唐がなぜ銃殺されるのかもよく分からない。

それでも、ユニークなシーンもあった。日中双方の慰安婦を描くことで、性を踏みにじられた女性の悲痛を真っ向から描こうとしている点は好感が持てるし、南京陥落慶祝の和太鼓と兵士たちの裸踊りには日本の軍国主義とそれを鼓舞した武士道精神に対する陸川の痛烈な批判がこめられていると思う。このシーンは、これまで中国映画で繰り返し描かれてきた日本兵のどんな残虐な行為や乱暴な言葉遣いより、日本人に嫌悪と恥を感じさせるのに効果的だと思う。ただ、この裸踊りが日本体育大学の有名な裸踊りに似ていて、もっともらしいけれど出所不明だ。『鬼が来た!』の腹踊りのほうが日本の軍人がやりそうではある。

角川を演じた中泉英雄と従軍慰安婦の百合子を演じた宮本裕子という日本人俳優の演技が素晴らしかった。この作品に出演した勇気にも拍手を送りたい。中国の俳優も熱演している。コメディアンの域を脱した范偉の演技には心を揺さぶられたし、慰安婦を志願する小江を演じた江一燕も出番は少ないが、強烈な印象を残す。それに比べると大幅にシーンがカットされたらしい劉燁は割を食ってしまった感がある。

だが、何よりも感心したのは中国の兵士たちを演じたエキストラの顔である。怯えた表情、必死の形相、茫然自失の顔。それらのまったく今風でない面構え。よくぞ見つけてきたものである。子役たちの表情もいい。何も分からないながらも尋常ではない何かを悟っている不安げな顔、あどけない顔。そうした、とても素人とは思えないリアルな表情の数々に心をえぐられた。

反対に日本兵を演じた日本人は少々個性が乏しい。いかにもひ弱な現代の若者ばかりで、中国兵並みの昔風の面構えの日本兵を取り揃えられていたら、もっと作品に重みが出ただろうと思うと残念である。この点でも『鬼が来た!』に軍配が上がってしまう。

 

 

 

  

人民中国インターネット版 2009年11月

 

 

 

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