チベット高原には羅刹女(一種の魔女)が横たわり、災いを起こすという伝承がある。
ソンツェンガンポ王は唐から迎えた妃・文成公主の占いに従い、羅刹女の手・足・肩・肘・膝・臀部にあたる12ヵ所を抑える釘として寺院を建て、心臓にあたる湖を埋め立ててチョカン寺(大昭寺)とラモチェ寺(小昭寺)を建立した。
本作品はこの吐蕃開国伝説を描いた図版で、羅刹女は頭を東に仰臥し、中央がチョカン寺である。釘としての寺院以外にも大小の寺院が描かれている。チベットへの本格的な仏教伝来はティソンデツェン王の時代で、全土への寺院建立は伝説の域にとどまるが、仏教以前の土着信仰を象徴した羅刹女の上に仏教寺院を建立する話は、吐蕃王国の宗教的、内政的な国家形成を象徴するものと考えられる。 |